「HONDO」料理教室主宰 本藤房子(ほんどう ふさこ)さん
先生ではなく、房子さんと呼ばれたい
「ねぇ、房子さん。よくレシピに書いてある<味をととえる>ってどういうこと?」(生徒さん)
「自分の好みの味にするっていう意味よ」(本藤さん)
生徒さんは本藤さんに声をかけるとき、「先生」ではなく「房子さん」と親しみを込めて呼びます。その理由を本藤さんにたずねてみると、
「だって、先生って言われるの、嫌なのよ。新しく入ってきた生徒さんにも先生って呼ばないで、って最初にお願いするの」とのこと。生徒さんとたけのこ堀りに行ったり、よもぎ餅の会を開いたり。生徒さんと一緒になって『食』を楽しむ姿勢が、こんなところにも感じられました。
にぎやかに会話をしながら、そして時には料理以外の話に脱線しながらのレッスンは、まだまだ続きます。
「『信田巻き』は、油揚げの袋を開き、下味をつけた鶏挽肉をのせて巻いたものとヒジキを一緒に煮たメニュー。油揚げは箸でコロコロしてからだと開きやすいのよ。挽肉に下味をつけておくのは、煮汁で煮ただけだと味がしみこみにくいからなの」など、調理のポイントとおいしく作るためのコツを、次々とアドバイス。
「今日のひじきは韓国産と日本産を買ってみたの。試しに両方戻してみるから、色や味を確かめましょうね」。ときには食材についての知識を深めるために、色々なことを試してみるそうです。
味の記憶を作るのは、ツマミ食い!?
「『竹の子と豚バラのキンピラ風煮もの』は、今日は私が作るから、みんなは試食してね。竹の子はね、炊き込みご飯にするときは甘く味つけしないほうがおいしいの。こんな感じで炒めるときは、しっかり甘めにするとご飯に合うおかずになるわよ」
そう言って、生徒さんの手にのせたのは、炒めた竹の子。
「うちね。ツマミ食い料理教室なんです(笑)」と本藤さん。すぐに「おいしい~!」との声が出て、生徒さんのテンションが上がります。
続いて『信田巻き』のお鍋をのぞいてみると、挽肉を巻いた油揚げがプックリと膨らんでいます。菜箸に煮汁をつけて、生徒さんの手にチョンチョンとのせてまた味見。
「うん。おいしい! 『信田巻き』はおべんとうのおかずにしてもいいね」と評判も上々です。『じゃが芋とシラスのコーン煮』もまたまた味見。「残ったらグラタンにしてもいいのよ」と、翌日の食べ方アイディアまでアドバイスしていらっしゃいました。
食べ方の具体的なイメージが膨らむと、家に帰ってまた作りたくなるのだそう。生徒さんの1人は「房子さんに習った料理を家で作ると、家族にすごく評判がいいんです」と教えてくださいました。
料理初心者が疑問に思うようなことを先回りするように、非常に詳しく料理のコツを指導する姿が印象的な本藤さん。
「自分が何度も失敗したからこそ、生徒さんに細かいところまで教えることができるんだと思います。レシピを考えるときは、試行錯誤の連続。どうやったらおいしくなるのか、何度も作ったり、分からないことは徹底的に調べて、理想の味に近づけます。その積み重ねがあったから、実際に役立つ料理のコツを教えることができるんだと思いますよ」
おいしい味を記憶するために、味見をすることは非常に大事。生徒さんが家に帰っておいしく作ることができるのは、この「ツマミ食い」があるからなのかもしれませんね。
料理上手は片づけ上手
いよいよ、でき上がった料理がテーブルに並びました。お待ちかねの試食タイムです。
今回は、なんと私たち取材スタッフも試食させていただくことに。しかもちゃんと1人前! ちょうどお腹がすいてくる時間だったので、 嬉しいやら、申し訳ないやら。どの料理もやさしく、温かい味で、あっという間に胃の中に収まりました。
ここで、通い始めて2年という生徒さんに質問。本藤さんを目の前に言いにくいかもしれませんが、改めてこの料理教室の魅力は?
「デモンストレーションだけではなく、実際に自分の手を動かして作るところがいいですね。房子さんは、旬の素材や自分が知らない食材についても詳しく教えてくれます。習った料理は家でも結構作りますよ」
試食のテーブルでは、話題は料理に限らずさまざまな方向へ広がっていきます。
「生徒さんと話していると私も勉強になります。色々な情報を交換できるのも、サロン形式の料理教室の魅力ですよね。ついついしゃべりすぎちゃって、予定時間をオーバーすることもしょっちゅうです(笑)」
長く通う生徒さんがたくさんいらっしゃるというのも納得。先生と生徒という関係にとらわれず、おいしいものを一緒に楽しみたいという意識が、にぎやかな教室の雰囲気を支えているようです。
(次回へつづく)
インタビュー=窪田みゆき
テキスト=川端浩湖
写真=中村あかね
プロフィール
本藤房子(ほんどう ふさこ)さん
「HONDO」料理教室主宰・料理研究家
知り合いの店で作っていた家庭料理が評判となり、レストランを開業することに。約4年半続けた後、常連のお客様に頼まれて、少人数制の料理教室を開く。現在は自宅で数々の有名料理教室やホテルのシェフから学んだ料理の知識をベースに、アイディアあふれる創作家庭料理を教えている。料理教室にとどまらず、講習会や企業へのレシピ提供、食品会社による香港・韓国の新店舗開業プロデュースを行っている。『月刊いちかわ』で「食の歳時記」を連載中
とっておきレシピ
信田巻きとヒジキの煮もの
材料
鶏挽肉・・・150g
油揚げ・・・1枚
ヒジキ・・・20g
★片栗粉・・・小さじ1
★卵・・・1個
★醤油・・・小さじ1
★みりん・・・小さじ1
★酒・・・小さじ1
★塩少々
《煮汁》
出汁・・・3カップ
みりん・・・大さじ2
醤油・・・大さじ2
酒・・・大さじ1
砂糖・・・大さじ1
塩・・・小さじ1/3
作り方
-
- 1.油揚げを湯通しして冷まし、まな板の上に置き、箸をコロコロして、三方に切り込みを入れて広げる。
- 2.鶏挽肉に、★を入れ、よく混ぜ合わせる。
- 3.1に薄く片栗粉を振り、2をのり巻きのように広げて巻く。
- 4.ヒジキは水につけて戻し、食べよい長さに切る。
- 5.鍋に煮汁を煮立たせ、3、4を加えて強火で煮立て、落とし蓋をして弱めの中火で煮る。
- 6.煮汁が少なくなってきたら味を調え、1~2分煮て火を止める。 油揚げを取り出し、6等分に切り分け、ヒジキとともに皿に盛る。
菜の花和え
材料
卵・・・2個(砂糖、塩)
鯵・・・1尾
ウド・・・5cm
絹さや・・・10枚
酢
塩
砂糖
合わせ酢(酢 大さじ3、砂糖 大さじ3、塩 小さじ1/3)
作り方
- 1.鯵は三枚におろし、塩をして身が引き締まって中骨が立つまで20~30分置く。
- 2.1を水洗いして水けをよく拭き取って、酢を入れたバットに並べ、ペーパータオルをかぶせる。
- 3.絹さやは、筋を取って塩少々を入れた熱湯で茹でる。
- 4.ウドは、皮を取り短冊切りにして、酢水に放ちザルに上げ、水けをペーパータオルで取る。
- 5.卵を割りほぐし、砂糖、塩少々を入れて混ぜ合わせ、鍋でそぼろ状にする。
- 6.2の鯵の水けを軽く取って、皮を取って太めの斜め切りにする。
- 7.合わせ酢を混ぜ合わせる。
- 8.ボールに3、4、5、6を混ぜ合わせ、出来上がり。