「HONDO」料理教室主宰 本藤房子(ほんどう ふさこ)さん
まずは楽しむことが料理教室のテーマ
—-今年で10年を迎えるそうですが、教室ではどんなお料理を教えていらっしゃいますか?
本藤さん 「家庭料理」が一番! をモットーにレッスンをしています。生徒さんは10代から60代まで幅広く、長い人だと5~6年は通っていただいていますね。メニューは限定せず、その時々の旬のものを使った料理を教えているので、生徒さんは、毎回どんな料理を習うことができるのか「お楽しみ」なんですよ。
新しく入ってくる生徒さんにはね。「料理を習おうと思って来ないで」と言っているの(笑)。料理教室なのにこんなことを言われたら、普通はびっくりしますよね。でもうちでは、料理の技術を学ぶ以外に、食事を作る楽しさ、おいしさ、誰かに食べてもらう喜びも感じで欲しいと思っているから、「まずは楽しんで」と声をかけているんです。
今につながる幼い頃の食体験
本藤さん もともと音楽大学に通っていたので、結婚する前はピアノ講師をしていました。大学卒業後、わりと早くに結婚したのですが、家庭料理に目覚めたのはそれがきっかけ。数々の有名料理教室やホテルのシェフのところに通い、本格的に料理を学び始めました。その頃は、料理の道を目指そうなんて気持ちは全くなかったんですよ。
—-今のように料理教室をされるようになったきっかけは?
本藤さん 幼い頃から「食」に対する興味が自然と身についていた気がしますね。生まれ育ったのは広島。商売をしている家に生まれたので、人の出入りがとにかく多い家だったんです。祖母や母が常に台所に立ち、たくさんの料理を作っていたのですが、食へのこだわりが徹底していました。おいしい、おいしくないにうるさいというか、そばやうどんを水でしめるときでさえも、細かく注意を払っていましたね。
—-幼い頃の食体験が今につながっているんですね。
本藤さん そうかもしれません。お餅を丸めるのを手伝ったりもしましたから、私も台所にちょくちょく出入りしていました。祖母がするごまの香りなども鮮明に記憶していますね。
緑が豊かな田舎で育ったので、おやつといえばそのあたりになっている柿やグミ。そうそう。子どもたちだけのお花見というのもあったのですが、母が作ってくれたお弁当がおいしくて! おいしいものを食べる食の喜びに触れたのも、その頃だったと思います。
料理教室では、生徒さんと一緒にいちご狩り、さつまいも堀り、栗拾いなど課外活動もしているんですが、旬のおいしさに触れた幼い頃の記憶が、今につながっているんだと思います。
—-広島での暮らしは、大切な思い出ですね。
本藤さん これ(写真)は、広島の実家から持ってきた染付けの器。大鉢、小鉢、取り皿など色々ありまして、大切に使っています。今は手に入らないようなかわいらしい形もあるので、とても気に入っているんですよ。
偶然が重なって開いた料理教室
—-料理教室を始める前にレストランをされていたとか。
本藤さん それまで子育てに追われていたのですが、子どもが成長し、自立してから、今までできなったことをやろうと思ったんです。再び料理を習いに行ったり、陶芸などの習い事を始めたり。
そのうち、知り合いの店で今まで家で作っていたような家庭料理を出すことになり、嬉しいことに皆さんに好感を持っていただくことができました。「お店、できるよ」と後押ししてくださる方もいらっしゃったので、思いきってレストランを開業することにしたんです。
仕入れから経理までひと通りのことをこなし、試行錯誤の連続でしたが、次第に常連のお客様も増えていきました。約4年半続け、ひと区切りついたと思ったので、そのお店を辞めることにしたのですが、そこが私のターニングポイントになりました。
—-常連のお客様にとっては、残念だったのでは?
本藤さん ありがたいことに、そう言っていただける方が何人もいらっしゃいました。そのなかで「お店で出していたような料理を教えて欲しい」というお話があり、その方々のために自宅でレッスンをすることにしました。これが料理教室を始めることになったきっかけです。以来10年間、月に10日前後、教室を開いています。
—-周囲の方々の強い要望があったんですね。
本藤さん レストランにしても、料理教室にしても、巡ってきたものをそのまま受け入れてきた結果、今がある気がします。現在は料理研究家と名乗っていますが、それも料理を通じて知り合った方から「あなたのような活動は、料理研究家というんですよ」と言われたから(笑)。
私は自分のことを感覚の人だと思ってるんです。何かお話があったときに「今、これをやりたいな」とか、「これはやらないほうがいいかな」という感覚に素直に行動するようにしています。だから、今はやりたいことができているからすごく楽しい! 逆にどうかなと疑問に思ったことは、やらないほうがいいと思うし、無理してもうまくいかないことが多いですね。
—-ご家族の反応はいかがですか?
本藤さん 今はもうみんな自立しているから、私が料理の仕事で忙しくしていることをすごく応援してくれています。ただ、息子と娘が小さかった頃は、仕事で作った料理を食卓に出すと「これは私たちのために作った料理じゃないでしょ」と言って手もつけてくれなかったんです。「気」が入っていないのが伝わるんでしょうね。
(次回へつづく)
インタビュー=窪田みゆき
テキスト=川端浩湖
写真=中村あかね
プロフィール
本藤房子(ほんどう ふさこ)さん
「HONDO」料理教室主宰・料理研究家
知り合いの店で作っていた家庭料理が評判となり、レストランを開業することに。約4年半続けた後、常連のお客様に頼まれて、少人数制の料理教室を開く。現在は自宅で数々の有名料理教室やホテルのシェフから学んだ料理の知識をベースに、アイディアあふれる創作家庭料理を教えている。料理教室にとどまらず、講習会や企業へのレシピ提供、食品会社による香港・韓国の新店舗開業プロデュースを行っている。『月刊いちかわ』で「食の歳時記」を連載中
とっておきレシピ
信田巻きとヒジキの煮もの
材料
鶏挽肉・・・150g
油揚げ・・・1枚
ヒジキ・・・20g
★片栗粉・・・小さじ1
★卵・・・1個
★醤油・・・小さじ1
★みりん・・・小さじ1
★酒・・・小さじ1
★塩少々
《煮汁》
出汁・・・3カップ
みりん・・・大さじ2
醤油・・・大さじ2
酒・・・大さじ1
砂糖・・・大さじ1
塩・・・小さじ1/3
作り方
-
- 1.油揚げを湯通しして冷まし、まな板の上に置き、箸をコロコロして、三方に切り込みを入れて広げる。
- 2.鶏挽肉に、★を入れ、よく混ぜ合わせる。
- 3.1に薄く片栗粉を振り、2をのり巻きのように広げて巻く。
- 4.ヒジキは水につけて戻し、食べよい長さに切る。
- 5.鍋に煮汁を煮立たせ、3、4を加えて強火で煮立て、落とし蓋をして弱めの中火で煮る。
- 6.煮汁が少なくなってきたら味を調え、1~2分煮て火を止める。 油揚げを取り出し、6等分に切り分け、ヒジキとともに皿に盛る。
菜の花和え
材料
卵・・・2個(砂糖、塩)
鯵・・・1尾
ウド・・・5cm
絹さや・・・10枚
酢
塩
砂糖
合わせ酢(酢 大さじ3、砂糖 大さじ3、塩 小さじ1/3)
作り方
- 1.鯵は三枚におろし、塩をして身が引き締まって中骨が立つまで20~30分置く。
- 2.1を水洗いして水けをよく拭き取って、酢を入れたバットに並べ、ペーパータオルをかぶせる。
- 3.絹さやは、筋を取って塩少々を入れた熱湯で茹でる。
- 4.ウドは、皮を取り短冊切りにして、酢水に放ちザルに上げ、水けをペーパータオルで取る。
- 5.卵を割りほぐし、砂糖、塩少々を入れて混ぜ合わせ、鍋でそぼろ状にする。
- 6.2の鯵の水けを軽く取って、皮を取って太めの斜め切りにする。
- 7.合わせ酢を混ぜ合わせる。
- 8.ボールに3、4、5、6を混ぜ合わせ、出来上がり。