まるたか農園 高西タマ子
ハゼランのおひたしづくり
まるたか農園のゲートを入った左手、以前は農作業用の倉庫兼休憩所だったプレハブが4年前、料理体験レッスンのためにリフォームされました。
入り口の引き戸をガラガラっと開けたところが、食事と講義用のスペース、奥がキッチンです。小ぢんまりしたキッチンが向かい合わせに2台置かれていて、大勢でワイワイ作業をするのにうってつけ。素朴でオープンな空間には光がいっぱいで、少し冷たいそよ風が気持ちよく吹き抜けていきます。
食器棚に冷蔵庫、2口コンロ。特別な設備はありませんが、業務用のオーブンにマジックで大きく「まるたか」と書かれているのがなんとも微笑ましい佇まい。あとでうかがうと、地元のお祭りや講習会で出張調理をするとき、器具が迷子にならないための工夫なのだそう。よく見ると、ボウルも名前入りでした。
エプロンをお借りして、料理体験スタートです。
「ハゼランのおひたしをつくります。まず、茎から葉っぱだけちぎってくださいね」
はじめて触れる食材におっかなびっくり。葉をもいでいると、スパイシーな香りが鼻をくすぐり、ちぎったところが少しヌルっとしているのがわかります。
「ゆがくと少しぬめりが出ますね。これはみそ汁にも入れますよー」
ピンクのお花はどうしましょう? 「お花がきれいに咲いていましたか? じゃあ、盛り付けの最後に飾りましょうか(笑)」
作業を続けると、ハゼランのさわやかな香りがどんどん強くなっていきます。本当にすっきりといいにおいです。
と、タマ子さんがまな板の上にコロンと何かを置きました。
「これ、島にんにく。さっき穫りました。本当はもうちょっと大きくなるんだけど、私が間違って引い(抜い)ちゃった(笑)。せっかくですから今日、つかいましょうね!
にんにくの芽は薬味にもいいですね。細かく刻んでしょうゆに漬けておくと、お刺身とかお餅を食べるときに重宝ですよ。大根餅なんか、最高においしいですよー」
それはおいしそう!
「ハゼランの葉を洗ってくださいね。それで、お鍋にお湯を沸かしてゆがくだけ」
ハゼランの茎は捨ててしまう? 「それはまた挿し木にしますよ」
なるほど、茎を植え直すとまた葉が出てくるのですね。すごい生命力です。
シリシリ器でパパイヤを削る
「はい、次はパパイヤチャンプルーね。まずヘタの所を切り取ります。白い血が出てくるので切り取ったヘタでこうやって…(キュウリのアクを、ヘタをクルクル動かして浮かせて取り除くような方法で)、それで洗い流します。
タテ半分に切って、皮むき器(ピーラー)で皮をむいてください。ちょっと滑りますか? がんばって!(笑)」
沖縄の伝統料理の体験以前に、料理自体の初歩?と疑われるほど手元がおぼつかない取材スタッフの様子も、タマ子さんはただニコニコと見守っています。
皮がむけたら、中のタネをスプーンで取り除きます。
フルーツとして食べるパパイヤの実はオレンジで種は黒ですが、このパパイヤは果肉も種もうす緑色。あまり調理する機会がないので、そんな違いを目の当たりにするだけでも新鮮です。
ここでタマ子さんが取り出したのは「シリシリ器」。形は、野菜のせん切りなどができるスライサーに似ていますが、刃の切れ味がスライサーほど鋭くないため、「切る」というより「削る」感じ。切り口がギザギザに仕上がるので、味が入り込みやすいのだそう。
かんたんそうですが、シリシリ器の作業は慣れないとなかなか大変。タマ子さんも「手を気をつけてくださいねー」と心配そうです。皮むきの時点で苦戦した生徒ですから、なおさらですね(笑)。
そうこうするうちに、お湯が沸きました。少し塩を入れてハゼランをゆでます。葉を投入して再沸騰したらあっという間にゆであがり。泡状のアクがたくさん出てきたところで湯を切り、水で冷やします。
水気を絞って1センチくらいに刻み、器に盛り分けたら、自家製のタレをかけ、ゴマを振ってできあがりです。
手についたハゼランをちょっとつまみ食いしたら、海草のようなシャキシャキした歯ざわりでした。
「ピンクのお花がありましたよね…そうそう、それを飾ったらできあがりです!」
「スーチキ」は豚肉の塩漬け
そしてシリシリ器が再登場。今度はニンジンを「色味がきれいになるよう、少しだけ」削ります。2回目は少し慣れて、作業は順調。「慣れたときが危ないですよー」と声がかかります。はいっ!
タマ子さんが冷蔵庫から取り出したのはスーチカ。豚肉の塩漬けです。これをパパイヤ、ニンジンと大きさを揃えて切り、チャンプルーに入れます。
「沖縄では昔、年に2、3回だけ豚を絞めていましたね。でも、冷蔵庫がなかったので塩に漬けてカメに保存しておいたんです。それがスーチカの起源ね。なければベーコンでもいいですよ」
タマ子さんが畑で抜いた島にんにくをみじん切りにし、少量の油とフライパンへ。香りが出てきたら刻んだスーチカを加えます。
「スーチカは、地方によってスーチキとも言ったりしますね。今日使うのは少し塩抜きして売られているものです。
はい、スーチカから油がしみ出てきたらパパイヤとニンジンのシリシリを全部入れましょう。それから…あらあら、ニラがなかった!」
と、タマ子さんが包丁を持って外へ。しばらくするとニラ1束を手に、戻って来られました。
細めのピンっと元気なニラですが、タマ子さん曰く「肥料もやってない」のだとか。沖縄の土の豊かさがうらやましくなります。
摘みたてのニラを洗い、3センチほどにザクザクと刻んだら、チャンプルーの仕上げに加えます。塩こしょうで味をととのえてできあがり。スーチカの塩味と脂の風味に、フワッとニラの香りがきいて、おいしそう。
石垣ならではの食材や調理器具に触れ、遊ぶように料理を楽しんだ30分ほどの調理体験が終わると、料理の試食と、タマ子さんのお手製ランチがいただけます。
祝い膳のようにテーブルに運ばれてきた料理の数々は、レッスン料込みで2500円という価格ではあり得ないほど、どれも手のかかった、心のこもったお料理でした。
「では、召し上がってください!」「いただきまーす!」
タマ子さんご膳。絶品フルーツデザートつき!
写真の左下から
ごはん:石垣産の黒紫米(こくしまい)入り
もずく:小浜島産。「友だちが小浜でもずく漁をしていて、そこから届きましたよー(笑)」
グァバゼリー:タマ子さんの畑で採れたグァバ。香りがよく、ゼラチン少なめのやわらかな仕上げ。タマ子さんはグァバでジャムも作るそう
米(まい)のみそ汁(イナムルチ):蒸したお米をすって、みそと合わせたトロッとしたお汁。ごぼう、大根、ニンジン、きくらげ、しいたけ、タケノコ、こんにゃくと具沢山で、緑が鮮やかなオオタニワタリの新芽を添えて
ラフティ:調理に手のかかる、皮付きの豚の三枚肉をやわらかく炊いたもの。肉のうま味が舌でとろけます。枝豆を散らして
ジーマミー豆腐:ピーナツを使った沖縄の郷土料理。自家製! もちもちの絶品でした
つけもの:キムチとパパイヤのつけもの。キムチもタマ子さんがつくられました
サラダ:ゴーヤと大根、きゅうりにトマト。葉の裏側が紫色のハンダマという沖縄の伝統野菜も少々。香りがよい!
イリチー:スンシー(タケノコの塩漬け)と昆布の炒め煮。タケノコは石垣から近い台湾産のものも多いそう
天ぷら:オオタニワタリ、ゴーヤ、紅イモ、ウイキョウの天ぷら。揚げ手は娘さん
煮物:肉で巻いてあるのは青パパイヤ、さやいんげん、ニンジン。大根のように見えるのは青パパイヤ。ニンジンと平たいさや豆、昆布と煮つけてあります。「これは花昆布といって、石垣特有のものです。お祝いのときなどに出すお料理ですよ」
盛り合わせ:紅イモの茶巾、グルクンの南蛮漬け(マンゴーのピクルス入り)、きくらげの佃煮
それから、調理体験でつくった2品。
パパイヤチャンプルー:「パパイヤはいろいろ使える便利な野菜。煮物にしたり、せん切りを湯がいてみそ和えにしたり、お漬物や生のままサラダでもおいしいですし、熟せば果物になりますから。
なっているパパイヤのうち、下のほうを残しておくと、だんだんピンク色に熟してきます。上のほうはどんどん収穫して野菜としていただきます。
石垣では、一家に1本はパパイヤの木があって、天候不順なんかで野菜がないときは実をもいで、料理するんですね」
ハンダマのおひたし:少し塩を加えてゆでただけ。今日はゴマ風味ですが、ポン酢などで食べてもおいしいですよ。
いただいた料理のうち、天ぷらだけは、「揚げたてをお客さんに食べてもらいたいけれど、料理の説明もしなければならない…」ということで、娘さんが手伝っていらっしゃるそうですが、あとはすべてタマ子さんがつくったもの。すごいバイタリティです。
あっという間に完食。おいしかったー!と大満足していたら、さらにマンゴージュースが登場。
冷凍マンゴーをミキサーにかけたフローズンデザートで、都会のフルーツパーラーで出てきてもおかしくない、とても上品でぜいたくな味でした。
品数が多いので「食べきれない?」と心配になりますが、1品が少量ずつなので大丈夫。
穫れたて野菜の味を生かしたうす味で、どのお料理も素材をよく知っているタマ子さんならではの仕事が加えられ、意外な味わいと食感で飽きません。
あーおいしかった。ごちそうさまでした!
(次回へつづく)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ
プロフィール
高西 タマ子(たかにし たまこ)さん
まるたか農園で昔なつかしいあっぱ(母さん)の沖縄の伝統料理の味を伝授。
まるたか農園
住所 石垣市登野城2151-5
電話 0980-83-1665
*3日前までに要予約料金
一人2500円(12~14時。昼食付き)