「Backe分室no.605」Backe晶子(べっか あきこ)さん
――パンづくりをお仕事にされたのはどういう経緯で?
晶子さん 自分では「結婚したのだから専業主婦になろう!」と決めていたんです。でもやってみたら合わなかった(笑)。それで、社長になろうと思ったんです。
――いったん専業主婦に転職されて(笑)、さらに社長に転職されたわけですね。
晶子さん そう!(笑)。アパレルに戻るという道もありましたが、新しいフィールドで一からスタートしてみたかったんですね。
「Becke」=プロのパン屋さんになりきらない存在
晶子さん 当時憧れていたのが料理研究家の仕事で、業界事情を調べた結果、何かしら発信する場所が必要だと。それでまず、ホームページをつくることを思いつきました。
自分のつくったものをなんとなく紹介したいというフワフワした意図ではなく、いつか仕事につなげるための準備として、はっきりビジネスを意識したページでした。
「Backe」という名前はそのときから決まっていました。「パン屋さん」を意味するドイツ語「Backerei」から「rei」を取ったもので、パン屋さんというプロになりきらない存在という意味です。
7年前くらいですから、まだブログもない時代で、レシピを載せたサイトはほとんどありませんでした。私は試作したパンを紹介しながら、そのサイトに読者を集めることからはじめましたね。
当時は「パン」というとあったかい家庭的なページがほとんどでしたから、あえてブルーを使って男性的なイメージ、家族のことにも触れず、将来的にやっていきたい「かっこいいパンづくり」を、文章や写真やデザインで表現しました。
最初にイベントをさせていただいたカフェbagle chocoさんも、そのホームページがきっかけで声をかけていただいて、そこからはトントンと仕事がくるようになりました。
『絵本からうまれたおいしいレシピ』のシリーズもホームページを見てくれた編集の方からお話をいただきました。
カフェもそうですが、ホームページも私の名刺代わり。このページを見れば、私がどんなセンスの人間か、どんな仕事をするかがわかっていただける。ホームページはすごく大きなブランドイメージになるので、大事に扱わないといけませんね。
――カフェを完全予約制、1日2組限定としているのもイメージ戦略の一環ですね。
晶子さん ええ。自宅のガレージを改装しましたが、手づくり感はなくしました。
ガレージを改装したカフェというと、夫婦で協力してハンドメイドで、というふうになりがちですが、それをあえてデザイナーズっぽく生活感もなくして、プロにつくり込んでもらいました。あえて完全予約制にして、敷居も高くしましたし。
――意外性や希少性に人が集まるわけですからね。お教室をはじめられたのは?
晶子さん 2007年3月にカフェをオープンして、11月には自宅カフェではじめてのベーグル講座を開きました。
でも実は最初、「講座なんてできるかな?」と思っていたんです。教室に行った経験がないので、どんな段取りで、どんなお話をすればいいのかもわからなかったですし。
しかも「私は技術的な勉強はしていません。技術を学びたい人は来ないでくださいね」とホームページ上に明記したにもかかわらず、今日いらしてる結城さんとか、ご自分で教室をされている先生たちがたくさん来てしまった(笑)。内心ひやひやでした。
――(笑)。
「Backe分室no.605」に託した思い
晶子さん カフェをオープンしたときも、教室をはじめたときも思ったのは、「技術があれば何かができるとは限らない」ということでした。
技術があるのに、きっかけがなくて何もできない人がこんなにいる!もったいない!と思ったんです。
そこで「私がきっかけになることで花開く人もいるかもしれない」と思って
――それが、2009年にBacke分室no.605を開く大きなきっかけになった。
晶子さん そうですね。ベーグル講座を自分でやるだけならコンスタントに人が集まるという感触は得ていました。
でも最初から、もっと自分にしかできないこと、今やっている開業講座みたいなことにシフトしていこうと思っていたんです。
それでまず最初、恵比寿で会場を借りて、カフェ開業講座を開きました。
――この講座も盛況で?
晶子さん ありがたいことに。
これが最初の転機だったと思います。つまり、恵比寿で1日会場を借りるだけでも数万のお金がかかります。当然「人が集まらなかったらどうしよう」と思います。そこで「1人もこなくてもいい!」と思えるか思えないかが人生の岐路になる。
普通はやらないと思います(笑)。もっと自分に自信がもててから、もう少しお金がたまってから、と何かしら理由をつけてしまう。でも、このタイミングを逃すと波に乗れないんですね。
ただ、覚悟があればいいということではなく、「こういうプランだと経費がこのくらい、収入がこのくらい」と概算を出し、計画を練り、準備を整え、これなら実現できると、まず自分を納得させる根拠をつくるところからはじめなくちゃいけません。
それから、家族の反対であきらめるくらいなら、はじめないほうがいいと私は思います。
家族というのは、一番身近にいる存在です。だからこそ心配して、「そんなことうまくいくはずがない」と慎重になる。これは当たり前です。
反対されても自分のやりたいことを押し通して、結果、家族からも「やってよかったね」と言ってもらえる自信がなければ、はじめないほうがいい。そう思います。
気持ちが揺れているのに「えいや!」とはじめることだけが正解だとは、思いません。
私は好きなことを仕事にしたいと思って、そうしていますが、好きなことを仕事にするだけがすべてではありません。好きなことは趣味にとっておいて、仕事は仕事としてがんばる、という生き方もありですから。
レッスンのある1日のスケジュール
――お仕事がお忙しそうです。
晶子さん ほぼ毎日ここに来て、講座をやったり取材を受けたり。それ以外に自宅カフェもやっていますから、休みはほとんどありません。
自分のレッスンがある日のスケジュールはこんな感じです。
7:00 起床・朝食
9:00 取手駅から電車に乗る
10:00 上野駅に到着。部屋の掃除とパンづくりの準備
11:00 レッスンスタート
14:30 レッスン終了。片づけ
16:00 上野駅から電車に乗る
17:00 帰宅、夕ごはんのしたく
20:00 夕食
食後、Backeのメールマガジンやブログアップなど
2:00 就寝
休みはないですが、でも全部遊び!って考えています(笑)。
ずっと仕事=遊びをやっていたいくらいで、寝るのがもったいないくらい楽しいです。
新サイト「605*school」がオープン
――晶子さんの今後の目標を聞かせていただけますか?
晶子さん 今後は、今個人でやっているカフェやお教室の開業講座のようなサポート体制を、もっと大きな規模に、できれば企業体としてやってみたいですね。
何かをはじめたい人を支援するノウハウについては、誰にも負けない自信があるので。
その足がかりとして、この4月から、お教室開業を目指す大人の女性のための学校をWeb上にオープンさせました。『605*school』というサイトです。
ご自分の教室を運営されている先生方が自由におしゃべりしたり、お教室を運営していく上での情報交換などができるような場にしたいと考えています。
今まであまりにあれこれやりすぎた気がしているので(笑)、1、2年は足場固めをしようと珍しく思っています。
――ベーグルのベンチタイムと同じで、寝かせる時間が必要という?(笑)
晶子さん アハハ! たしかに。
1段階やりきった感触があるので、ここで今までをちょっと振り返って、たとえばBacke分室no.605の先生もみなさん、私がサポート役を離れても大丈夫か?というとまだなので、まずは先生たちに独り立ちしていただけるようにしたいです。
その結果、私がいなくても分室が回るようになれば、次の分室を構想してもいいかな?と思っているところです。
今は立ち止まる勇気が必要な時期のような気がしています。
もちろん完全に立ち止まるわけではなく、時流を見ながら、小さな実験を重ねながら、変わっていないように見せて中身をどんどん充実させていく。そんな活動を1、2年はしていくつもりです。
――では、最後にうかがいます。晶子さんにとってキッチンとは?
晶子さん キッチンは食べるものをつくる場所ですよね。苦しみながら食べる人っていなくて(笑)、どんな人でも食べるときには幸せな顔になるものです。
分室のキッチンもそうですが、ここに食べるものがあって人が集まるだけで、幸せな空気が生まれ、その空気がさらに広がっていく…不思議な空間だなあと思います。
私にとっては、ベーグルを何度も試作しては失敗した場所でもあるので、キッチンは何かをつくり出せるアトリエでもありますね。
――なるほど。いやーおもしろかったです。ありがとうございます。
晶子さん こちらこそ楽しかったです!
(おわり)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ
プロフィール
Backe 晶子(ベッカあきこ)さん
完全予約制の自宅カフェ「Backe」オーナー&お教室プロデューサー。
結婚を機に独学ではじめたパン作りをきっかけにHPを立ち上げ、さまざまなカフェイベントへの参加、レシピ本の出版を経て、 2007年茨城県にある自宅を改装し、1日2組限定、完全予約制のカフェ「Backe」をOPEN。
カフェではじめたパン教室が好評だったため 2009年からは台東区上野にお教室専用のスペース「Backe*分室no.605」を構え、、パン教室にとどまらず「お教室開業講座」「自宅カフェ開業講座」など「好きな事を仕事にしたい」女性に向けての講座を開催中。
Backe分室no.605
晶子さんの「お教室開業講座」「カフェ☆PAN講座」のほかに、8人の先生方による講座が開催されています。詳しくは晶子さんのご自宅カフェBackeのホームページから、「Backe分室no.605について」をクリックしてください!
レッスンをご一緒したお2人のサロン情報です。
太田有羽子さん: 東京・八王子の自宅パン教室「Maman Reve(ママン レーブ)」主宰。
結城なお子さん:東京・調布の自宅パン教室「Atelier705」主宰。
とっておきレシピ
Bache ベーグル(4人分)
材料
スーパーキング(最強力粉)…200g
カメリヤ…100g
インスタントドライイースト…小さじ1/2
三温糖…大さじ2
塩…小さじ1/2
ぬるま湯(35℃程度)…175cc
三温糖(ゆでる時用)…大さじ2
作り方
- ボウルに計量した粉をふるい入れ、塩と砂糖をはなしていれる。
ボウルを傾け、砂糖とそのまわりの粉を軽く混ぜながらくぼみを作り、そこにぬるま湯をそそぎイーストを振り入れ指で溶かすように粉と混ぜ合わせていく。
ひとまとまりになったら台の上にうつし手のひらに体重をかけて、押しのばすようにしっかりとこねる。 - こねあがったら軽く手で押し平たい円にしてスケッパーで4等分する。
- 切り口を包み込むように半分に折りさらに半分に折って丸め、表面に張りをもたせてとじめを下にしてしっかりととじる。きつく絞ったぬれ布巾をかけ10分のベンチタイムをとって生地を休ませる。
- 生地を台の上に取り出し軽く手で押しガスを抜き、平たい楕円にして三つ折りにして均一の太さになるように転がしながら、約25cmの棒状にする。生地の端と端を合わせてしっかりとめる。
- オーブンペーパーを敷いた天板の上に軽く茶こしでコーンミール(分量外)を振り、生地を並べきつく絞ったぬれ布巾をかけ、あたたかい場所で2倍にふくらむまで約35~40分発酵させる。
(発酵終了時間に合わせて、なべにお湯を沸かして三温糖を溶かしておく。) - ぐらぐらと煮え立ったお湯の中に生地をひとつひとつ入れていき、入れた順にひっくり返し、水気をきって天板に戻す。200度に余熱しておいたオーブンで約20分こんがりと焼き色がつくまで焼く。
あっさりミネストローネ(約4人分)
材料
ブロックのベーコン…100g
えのき…100g
玉ねぎ…1個
にんじん…1本
にんにく…1かけ
キャベツ…1/4個
サラダ油…小さじ1
塩…小さじ1/2
スープ…4カップ
(お湯4カップにコンソメキューブ2個を溶かしたもの)
パルメザンチーズ…適量
作り方
- ベーコンとにんじんは1cm角くらいに切り、キャベツは粗いざく切り、玉ねぎとにんにくはみじん切り、えのきは2cmくらいの長さに切っておく。
- 鍋にサラダ油を熱しにんにくをこげつかないように炒め香りが出てきたら、ベーコン、玉ねぎ、にんじんを炒め、野菜がしんなりとしたらキャベツとスープを加え、軽く煮込む。
- 塩・黒こしょうで味を整えて、仕上げにえのきを入れ、ひと煮たちしたらできあがり。
- 器に盛り、お好みでパルメザンチーズをふって食べる。