まるたか農園 高西タマ子
石垣島の小高い丘にある「まるたか農園」は周囲を牧草地帯に囲まれ、ウモォーという牛の声が時折のどかに響いています。気持ちのいい風に髪をなでられながら、「体験学習農園」と書かれたゲートをくぐると、目の前には大きなビニールハウスが何棟も連なっていました。
「こんにちはー!」 ゲートの左手にある建物の奥に向かって声をかけますが、答えは風の中…犬がワォーンと代わりに返事をしてくれました。
「こんにちはー!」 呼びかけていると、今月の主役・高西タマ子さんが、こぼれるような笑顔で急がず騒がずご登場です。
マンゴー栽培のハウスが10棟
まるたか農園はもともと、10棟のビニールハウスを持つ大きなマンゴー農家で、ハウスで採れるマンゴーの他、南国の植物や果実を使った加工品の製造販売も行っています。が、今日うかがったのは、新鮮な島野菜を自分で収穫し、とれたて食材を使って調理するお料理教室(しかも昼食付き!)を体験するため。
沖縄・石垣島のサロネーゼのお料理教室とは、いったいどんなものなのでしょう。
「今日はよろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。じゃあ、いつもどおりまず野菜を収穫しましょうか」
タマ子さんの先導でビニールハウス脇の小道を歩いていきます。空もすっきりと青く晴れ渡り、鳥の声も楽しげ。
左手に連なるマンゴー栽培用のビニールハウスを見上げながら、タマ子さん。
「2、3年前に大きな台風が続けてきたことがあって、そのときにハウスが全部壊れてしまったの。骨組みは残ったけれど、ビニールが全部飛ばされて。
張ったばっかりだったネットを、すぐに取り替えなきゃならなくなって、大変でしたよー。よその家の牛舎のトタン屋根が木にひっかかっていたりして、すごかったね。
今年のマンゴーは6月末ぐらいから出荷がはじめられると思います。旬は7月と8月。
今は花が咲いたばかり、点々とグリーンが見えると思いますけれど、あれが着花された分。これから実になります。着花のとき寒さが激しいと、小玉になったりしますよ。マンゴーは温度にすごく敏感ですから」
道ばたの草花にあいさつをするように、花や葉に時折手を伸ばしながら、タマ子さんはゆったりと歩いていきます。
かわいらしい赤い花がありました。「地元ではボンボリって言ってるね。学名があると思うけれどなんだったか…アハハ!」
赤い毛糸玉のようなこの花はベニコウガンという名前でした。「ボンボリ」のほうがこの花に似合っています。
タマ子さんがまた、道沿いの草を手にとります。
「これが長命草。ハーブの一種で、天ぷらにしたりサラダにしたり、刺身のつまでもおいしいです。それから長命草を粉にして、サーターアンダギー(沖縄のドーナツ)に混ぜたりして使います。
で、これが月桃。石垣ではサンニンと呼んで、お餅を包んだり、おにぎりを包んだり。殺菌効果があるので化粧水に加工されたりもしていますよ」
少し歩いただけで、伝統野菜がたくさん。情報も満載です。
「これが島バナナね」 タマ子さんの指す先を見ると、大きな羽のような葉の下に、むっちりとした青いバナナが折り重なるように吊り下がっています。
タマ子さんの畑で伝統野菜を収穫!
タマ子さんが入っていったハウスに、私たちも続いて潜入。ひときわ温かいビニールハウスに、タマ子さんが栽培する島野菜の畑がありました。
畑の野菜ひとつひとつに、名前と効能、かわいらしいイラストが手書きされたプレートが立てかけられています。タマ子さんの娘さんが、収穫体験にみえるお客さまのためにつくられたものだとか。
「これ、ハゼランといって、ほうれん草に負けないくらい鉄分の多い野菜です」 小さなピンク色の花が控えめに咲いて、葉は少し厚みがあってツヤツヤしています。
「それからこれがハンソウ。クワンソウ(カンゾウ)とも呼ばれている沖縄の伝統野菜で、根元のほうをいただきます。最近は葉っぱもお茶にしたりしてるんですよ。リラックス効果があって、昔はおばあちゃんたちがよく、ハンソウと豚のレバーやお肉と一緒に調理して、不眠症の人に食べさせたりしたものです。
ハンソウはチャンプルーもできますし、おひたしにしてもおいしいですね。最近人気があって、高級料理屋さんでも必ず、ハンソ ウの一品が出るくらいですよ。
ちょっと1本抜いてみましょうか」
と言って、タマ子さんがハンソウを収穫。根元がニラに似ています。
「これはハマナ。海辺に生えていたのを取ってきて、土に砂を混ぜて植え替えてみたら、けっこううまく育ちましたね。これは豊年祭などで神様に捧げる薬草のひとつですよ。
で、これがアボカド。こっちはヤモーミ(シマヤマヒハツ)。小さなぶどうみたいな実がなります。私はこれを摘んで、紫色のジャムをつくって出荷しています。ブルーベリーみたいな味ですよ。
こっちがピパーズ(島こしょう)ね。ほとんど収穫が終わってしまったけど…あったあった」
タマ子さんが葉をかきわけると、つくしの頭のような緑の実が顔を出しました。
「これが熟して赤くなったものを収穫してこしょうにします。ペーストにしてソーメンちゃんぷるーとか五目めしに入れてもいいし、香りがいいので、天ぷらにしてもおいしいですよ!
私はピパーズの葉っぱとこしょうを入れて、かりんとうを作って販売しています。甘いのだけど、ちょっとピリ辛。
ピパーズは冷え性に効果があるので、女性が食べるといいですよ。ハンソウと一緒で、おばあちゃんたちは豚のレバーやお肉と炒めて、産後の女性に食べさせていましたね。
これはグァバ。収穫はまだだけど、たくさんなってますね。7月ぐらいがおいしくなります。青いまま取って、薬品で成熟させるところもありますけれど、うちは樹で熟すのを待って収穫します。ジュースにしたり、ゼリーをつくったり、おいしいですよ。
今日のお料理にもグァバゼリーがつきますよ!(笑)」
それは楽しみです!
青いパパイヤを木からもぎ…
「あっちはゴーヤを植えたばかりの畑。奥は全部マンゴーの樹ですね。
今日はハゼランの料理をつくってみましょうか。じゃあ、こんなふうに根元から取ってみてください」
タマ子さんが大事に育てた野菜です。摘むのに躊躇していると、「ずんずん取っていいんですよー」と、タマ子さんが見本を見せてくれます。「ならば!」と、ハゼランが束になるほど摘んでいきます。
「もっともっと!」とタマ子さんは言いますが、こんなに取ってしまったらなくなりませんか? 「ううん、摘んだら摘んだだけ、また生えてくるから大丈夫」とタマ子さんがニッコリ笑うので、ひと安心。
それにしても、たくさん収穫しました。でも、こんなにたくさん食べられるかな?
島野菜があれこれ栽培された宝箱のようなハウスを出ると、パパイヤの樹。
「植えたものはなかなかうまく生えないのに、こうして小鳥が運んできた種から自然に生えたものは元気なんですよー」と楽しそうなタマ子さん。
「調理しますから、1つ収穫しましょうねー」
タマ子さんに「それそれ」と指示をいただきながら、パパイヤを1つ両手でつかみ、茎をクリっとねじって……パキン!と、思いのほかかんたんに、パパイヤがもげました。
「これを今日はチャンプルーしますよ!」
もいだ箇所からミルクのような樹液があふれ、よい香りです。
「昔はお産の後に必ず、パパイヤを食べさせたものですよ。お乳がよく出るようになるからね。今もお産した人のお見舞いに、よく持っていきますよ」
タマ子さんが話しているあいだも、樹液がどんどん湧き出すほどの正真正銘の「取れたて」パパイヤ。これから調理するのが楽しみです。
(次回へつづく)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ
プロフィール
高西 タマ子(たかにし たまこ)さん
まるたか農園で昔なつかしいあっぱ(母さん)の沖縄の伝統料理の味を伝授。
まるたか農園
住所 石垣市登野城2151-5
電話 0980-83-1665
*3日前までに要予約料金
一人2500円(12~14時。昼食付き)