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職人であり、開発者であり、生活者でもあり...燕三条の金属加工職人の思い
どこの家庭にもあるキッチンに収納されている様々なキッチンツール、カトラリーの大半が、実は新潟県の燕三条地域で製造されています。約70%以上にものぼります。第3回目の今回は、キッチンカトラリーの故郷、燕三条地域で、良質の商品がリーズナブルな価格で提供できる理由や、それを製造する職人さんの思いに迫りました。
掲載日: 2009/10/5(月)
工業デザイナー
吉田 宗玄さん
1人3役の開発。燕・三条のリーズナブルで良品な商品
今までの回でご紹介したように、現在、日本国内で製造・販売されている金属製のキッチンツールの大半が新潟、燕三条地域で製造されているわけですが、この地域で開発・製造されているキッチンツールに関しては、他の工業製品とは少し違うところがあります。
一般的に、家電製品や家具、照明器具などの工業製品を開発する場合、商品を企画する人、その企画にそって設計する人、その設計図に合わせて製品を作る人というように役割分担しながら、最低3人以上で開発が進められます。ところが燕・三条地域でのキッチンツール開発においては、実はこの3人分の役割を、製造現場の職人さんたちが、ほぼ一手に引き受けて開発されています。
実際に工場で製造を担当する職人さんが、新しい企画、アイデアを考え出し、自分の手で試作品を作り、その試作品で自ら料理などをして検証し、さらに改良を加えた物を自分達で量産するという手順で開発が行われることが多いのです。ですから、燕・三条の職人さんは日頃から料理をされる方も多く、工場勤務の女性の職人さんも多いことから、職人であり生活者でもある彼らがこの3つの役割をこなすことで、開発コストを抑え手ごろな価格の日用品として提供できたり、最近の中国製低価格粗悪品に比べ、機能性や価格でも負けないような製品を造りだすことができるのです。
最近では、一部の大手問屋さんがオリジナルブランドとして自社で企画やデザインを行ったり、デザイナーが係わったりする場合も出てきましたが、まだまだ製造ノウハウや使いやすい形状などについては、職人さんの経験が役に立っています。
『金属加工職人』であるとともに『自分でも料理をする生活者』
このようにして開発・製造された商品に、『IH専用カレー鍋』があります。この商品は、燕・三条で40年以上器物類を造り続けてきたプレス職人の藤井さんが、ご自宅でIHクッキングヒーターを購入した事をきっかけに、「軽くて清掃性も良く、IHの効率が良いステンレス鍋が出来ないか…」という思いから、ステンレス合金の材質や形状、料理の手順などもご自分で検討し、何度も高価な金型を修正し、試行錯誤しながら2年がかりで造りあげられたIH専用のカレー鍋(シチュー鍋)です。「IHは高齢者世帯で使われることも多い、そんな時に厚底で多層構造の重い鍋では料理をするのに力がいる…軽くて丈夫で清掃性が良い気軽に使えるIH鍋が必要だと思った」と藤井さんは言います。
そこで藤井さんは、多層構造ではなく単一素材でも、湯沸する時間が早く、比較的保温性の高い合金材料を調査し、“さびにくいステンレス”の18-8ステンレスに負けない耐食性とIHの効率が良い443CTという新しいステンレス合金を見つけました。その材料で、IHの効率が良く早くお湯が沸く鍋形状とその厚みを、実験を繰り返しながら検証を重ねました。さらにIHの特徴を生かし、取手部には加熱中でも熱が伝わらないようにする事で、取手や蓋のつまみにもプラスチックではなく同じステンレスを使用することで、清掃性、耐久性、リサイクル性を向上させたシンプルなIH専用鍋を完成させました。
このカレー鍋は、今年からクリナップ新宿ショールームにおいても販売が開始されました。藤井さんは、「燕・三条の職人は、どうやって物を造るかというだけではなく、どうすればさらに良い物を安価に提供できるかを常に考えているんですよ」、「新しいものを考える、改良していくという事が、自分達の知恵と技術で実現できるという事はすごく楽しいし、そうやって自分で造った道具で料理をしているとまた新しいアイデアを思い付く…」と話します。このように、日本のキッチンカトラリーを支えている燕三条地域の職人さんは、『金属加工職人』であるとともに『自分でも料理をする生活者』でもあり、その生活の中でキッチンツールについて考える事により、低価格で機能性の高い製品を提供し続けているのです。ちなみに、IHヒーターでは18-8ステンレス製やアルミ製、銅製のお鍋は使用できません(一部機種を除く)。 できるだけ底が平らで“IH対応”や“IH専用”と書かれているお鍋を用いて、あまり揺すったり振り上げたりせずに加熱すると、素早く加熱調理ができます。
この『IH専用カレー鍋』だけに限らず、日本製のキッチンツール、カトラリーは、その使い方や料理方法、収納方法、それに適した材質・製造方法についてまで、検討・考察されて造られています。
新しいキッチンツールをお買い求めになられた際には、そのパッケージや取扱説明書を十分読んで頂きながら、職人さん達がお勧めする使い方や、こだわりのポイントなどを理解して頂ければ、永く愛着を持ってお使い頂けると思います。
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吉田 宗玄(よしだ むねはる) さん
1969年生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業。
大手電器メーカー、大手キッチンメーカーで、製品の企画・開発・デザインを担当。燕三条の歴史と技術に感銘を受け、燕三条地域のクラフツマンと共に、工業デザイナーとしての新たなモノづくりに挑戦している。
現在、㈱ATRヤマト代表取締役。
(財)新潟県県央地域地場産業振興センター販路開拓アドバイザー/航空機産業参入研究会コーディネーターも務める。
(財)新潟県県央地域所地場産業振興センターHP
㈱ATRヤマトHP
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