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「定谷」のこだわり

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定谷豊(さだや ゆたか)さん

インタビュー 連載第3回

 今月のDreamia人は、東京・根岸にあるステーキ懐石のお店「定谷」オーナーシェフの定谷豊さん。政財界の要人、各界の著名人が「とっておき」と一目置く店ながら、厨房に立つ定谷さんは拍子抜けするほど気さくなお人柄。約40年にわたってプロの料理人として仕事をされる今もなお「料理が好きだから」と目を輝かせる定谷さんに、その半生、そしていつも側にあった厨房と、料理への思いをうかがいました。

掲載日: 2010/03/19(金)

_SSP9386.jpg ――しばらくお仕事を転々とされていた定谷さんが、根津で店をはじめたきっかけは?

定谷 西荻窪の店を閉めた後、根津のこの家を買ったときから店をやりたくてしょうがなかったですね。
 でもいざ店をはじめようとなっても周囲は大反対でしたね。「こんなところで店やっても誰も来ない!」って。オレとしたら「どこでやったって来ないときは来ねぇよ!」って(笑)。

――裏を返せば「来る人は来る」という意味ですか?

定谷 路面店だったらリーズナブルな料金設定をして、一見さんも入ってみえますけれど、そこそこ値段設定が高いと路面店でもお客さんはなかなか入ってこないってことです。
 つまりはじめから、それなりの食材を使って自分が納得のいく料理を出したかったから、安い料金ではやりようがなかったわけです。

お客さんとはいつも真剣勝負

_SSP9363.jpg――予約して来てくださるお客さんだけでいい、と。

定谷 当初はそう思っていましたけど、今は考えが変わりました。店はお客さんが来やすいところにあるほうがいいな、と思いますね。

――ランチをはじめたのは、来てくださるお客さんへの感謝の思いから?

定谷 そうですね。それから、うちの店は地元の人がなかなか入りづらいんです。でも、「カレー1500円」の看板を出して、こういうメニューもありますよって、少しでも敷居を低く感じていただけたらな、って思ってます。
 それから自分、怖いイメージがあるみたいで。一度来て食べて、話していっていただけば、結構やさしいってわかってもらえるかな?って(笑)。昔は怖かったですけど。

――どうやらそうみたいですね(笑)。

定谷 根岸っていう土地柄、食通のお客さんが多いんです。でも自分も負けたくないから、昔はお客さんとの戦争でした。

――「この牛肉、熟成が足りないんじゃないの?」とか文句を言うお客さんもいると。

定谷 そうそう。文句を言われたくないから、食材を探して探して、納得のいくものだけ出す。負けず嫌いですから。

――でも、お客さんとケンカは…。

定谷 実際にケンカするわけじゃないですよ。文句を言いたがるお客さんに何も言わせないように、料理で勝負してたってだけで。
 真剣勝負で料理やってて余裕がないんで、だから端から見ると怖いんでしょうね。

――料理に命をかけているから、愛想を振りまく余裕はないと。

定谷 そう。そのぐらい気合が入ってました。今は楽しんでやらせてもらってます。

素材にこだわり、手間を惜しまない

_SSP9069.jpg――今日いただいたカレーひとつとっても、食材の1つ1つに理由があって、こだわられていらっしゃるのがよくわかりました。

定谷 好きじゃないとうまいものはつくれませんから。料理をつくりながら、食材に触ってるうちに、直感で料理法とか味付けが浮かびますね。自分の場合は、発想が浮かんだら必ずすぐやってみます。そこで「面倒くさいな」とか「手間隙かかるな」と思っちゃうと、それまでのものしかつくれない。
 やってみておいしくないものができちゃう場合ももちろんありますよ? でもやってみないとはじまらない。そこはとにかくマメです。

――仕入れは築地ですか?

定谷 築地と、直でやりとりしている業者もあります。仕入れ業者に紹介してもらって、北海道とか九州とかから直接届けてもらいます。

――メインの牛肉はどちらから?

定谷 牛肉は問屋さんが買いにいく問屋さんと直接取引です。普通は個人では買えないところですが、つきあいが長いものでね。以前は自分で目利きしましたが、今は番頭さんに任せて選んでもらってます。

――銘柄で選ばれているわけではない?

定谷 ええ。もちろんA5のブランド牛なんですが、今までは2年半から3年育てたのが、今は景気が悪いのでほとんどが2年。
 中には2年半以上育てている生産者の方もいて、そういう牛はおいしいんですけど、それ以外は銘柄牛でもおいしくないんで。「松阪牛だからおいしいだろう」みたいに、銘柄で選ぶと今は裏切られます。

――あくまで状態のいい肉を選ぶということですね。

定谷 ええ。業者にも口うるさく言ってます。

――肉の熟成(タンパク質がおいしさの素「アミノ酸」に分解されるために熟成期間が必要)はどちらでされているんですか?

定谷 店でやります。ただ、うちで仕入れる肉は問屋さんに来る段階でかなり熟成が進んだもので、仕入れて1週間くらいで食べごろになります。

――炭はどんなものを。

定谷 佐藤燃料っていう備長炭専門の問屋さんにずっとお願いしています。
 築地からの仕入れも長くつきあいのある業者に頼んであります。朝連絡をとりあって、こちらの要望があれば伝えますが、基本的には信頼して任せています。いいものしか使わないって知ってますからね(笑)。

料理を「大変」と思ったことはない

_SSP9231.jpg――メニューの構成はどんなふうに考えられるんでしょう。

定谷
 そうですね…他に誰も使わないような走りの素材を使うんです。出始めの時期は価格が高いので、尻込みする店がほとんどですが、それを最初に1発ポーン!とかますんです。そうすると「こんな時期に?」とお客さんは驚きますよね。
 2品目からはすーっと流して、中盤でまたもう1発ポーン!と盛り上げる。最後でまたポーンとぶち上げる。料理も音楽や小説と同じでリズムがないと。

――なるほど。何を出すか?も大事ですが、メニューの構成でより楽しませるということですね。ポイントポイントにヤマ場をつくる。ずーっとヤマだと疲れますから。

定谷 昔はちょっとそういうところがありました(笑)。これでもか!ってね。

――お客さんが驚いたり喜んだりするのを見るのがお好きなんでしょうね。

定谷
 喜んでおいしく召し上がっていただくのがやっぱり一番です。ほとんど儲けが出なくても、喜んでいただければそれでいいんです。

――社長さんやスポーツ選手が多くみえるそうですが、みなさん舌が肥えていらっしゃるでしょうから、もてなす側は大変じゃないかな?と思うのですが。

定谷 うーん…大変と思ったことはないですね。いろんな店でおいしいものを召し上がった方がおっしゃることはこちらにとっても勉強になりますし。

 開店当初から来てくださる方もいらっしゃって、お客様にはほんとうに感謝ばかりです。

――親子二代で来られる方もいらっしゃる?

定谷 今のところいらっしゃいませんが、あったらいいですね。
 ただ、今の若い方は夜景がきれいとか、料理以外の要素も揃っていないと来ていただけないんじゃないですか?

――「隠れ家レストラン」というのはどうでしょう? 人気がありますよ。

定谷 うちは隠れすぎちゃってますからね(笑)。ただ、B型の方には人気があるんです、不思議と。10人来られると7、8人はB型っていうこともあるくらいで。

――ほぉ。

定谷 よく「B型はわがまま」って言われてますけど、わがままじゃないんです。自分勝手なだけ。
 個性的でアクの強い人は、一度気に入るとよほどのことがないかぎり気持ちが変わらないんですよ。ステーキ食べるならあの店、てんぷら食べるならあの店というふうに決めてしまうことが多い。
 店をやっている側としては、そういうお客さんをつかむほうがいいんですよ。

料理はいつだって勉強

_SSP9219.jpg――秋元康さんも、「知り合いに紹介しても、絶対に間違いがない店」として「定谷」を紹介されています。隠し玉の店として、定谷を大事にされている方が多いのではないでしょうか?

定谷 そうですね。ありがたいことだと思います。
「ここぞ!」というときに使っていただく店ということで、以前はこちらも気合が入りすぎてたところがありました。でも、今はいい感じで肩の力を抜いてやらせていただいています。そのぐらいがちょうどいいかな?と思います。
 料理は8割が食材で決まると思っていて、料理人の腕なんて高が知れてます。私の調理法はだから、あまり余計なことはしません。

――おいしい食材を仕入れたら、あとはなるべくおいしいままに召し上がっていただくだけ、という?

定谷 そう、料理人ができるのはそれだけ。とにかく食材が重要です。仕入れたものが気に入らなければ店の料理には使いません。

――ご自身が外食をされるときは、どんなお店に行かれるんでしょう。

定谷 なんでも行きますよ。店が終わったあと、気分転換に出かけますね。
 それにどんな店でも勉強になります。たとえば居酒屋さんは客単価が安いぶん、見せ方に工夫していますから、「こういう盛り付け方もあるんだ」とよく参考にさせてもらってます。

――これだけ長く料理人をされて、未だに学びの姿勢で、新しいものを取り入れていらっしゃるのはすばらしいですね。

定谷 18歳から40年近く料理人をやってますから、新しいものといってもパターン化してしまいますけれど、仕事中にふと思いついて試してみることは今でもあります。

――最近試してみて「オレ天才!」と思ったことは?

定谷 それはいっつも言ってます(笑)。ただし「紙一重」ですけどね、ははは!

(次回へつづく)

インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング
写真=下村しのぶ

プロフィール

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定谷 豊(さだや ゆたか)さん

料理人

ねぎし柳通り ステーキ懐石の店「定谷」店主

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ねぎし柳通り ステーキ懐石の店「定谷」

ランチ・・・カツカレー1500円
       シェフおまかせ3000円
ディナー・・・おまかせコース16000円より
          ステーキ定食5000円、10000円

※その他、ご予算に応じて承ります。

所在地東京都台東区根岸4-3-2

TEL03-3874-2406

*予約制

 

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