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パリ三ツ星レストランでの修行の日々

マカロン由香(まかろん ゆか)さん
インタビュー 連載第3回
今月のDreamia人は出張料理人のマカロン由香さん。東京・青山でお料理教室【Le Macaron YUKA.】(R)も主宰されています。有名女子大を卒業後、幼稚園の先生を務められ、20代後半に「料理を極める!」と決起。「フランス料理をやるからには!」と猛スピードで語学習得→渡仏→(途中で挙式)→三ツ星レストラン修行と目まぐるしく立ち回り、現在もお忙しい毎日を送っていらっしゃいます。料理が時間を豊かにしてくれることを教えてくれるマカロンさんに、パリ修行時代の裏話も含め、お仕事へのこだわりをうかがいます。
掲載日: 2010/02/19(金)
――エコール辻で1年、料理を勉強され、フランス語漬けの日々を経たマカロンさんがいよいよフランスへ渡られるわけです。
マカロン はい。最初に行ったのがニースで、ここで半年ほど、南仏料理と地中海料理を勉強しました。
辻調理師学校のフランス校に進むことも考えたのですが、どうせならフランス人に囲まれて修行がしたいと思って。
――そこからパリに移られる。
マカロン ええ。
ジャガイモをむくために来たんじゃない!
マカロン 私がパリでやりたかったのは、「いろいろな料理」を「幅広く」「現場で」「フランス人のなかで」学ぶ、ということでした。
もともと私は、レストランに行っておいしいものを食べると、その味をすぐに再現できてしまう素養があったみたいで、その上で、エコール辻で学んだ技術も必ず復習してすぐ自分のものにしていましたから、基礎はできていました。
ですから、学校に通って学問として料理を勉強するのではなく、これからは、なるべく現場に立って、いろいろな味を幅広く体験すべきだと思っていました。
ただ、オテル・リッツの「エスパドン(L'espadon)」をはじめ、ミシュランの星を獲っているような店は、何のキャリアもない人間がフラッと行って仕事をさせてくれる所ではありません。
ですから、まずはパリのエコール・リッツ・エスコフィエに入り、ディプロマを取得し、系列のオテル・リッツのエスパドンでの働き口を得ました。
――エスパドンの厨房はどんなところでしたか。
マカロン 巨大でした(笑)。いきなり投げ出されて、「ジャガイモ取ってこい!」と言われ、しばらくポカーン…ですよ。
気を取り直してとにかく走って、階段も2段抜かしで昇って降りてジャガイモを探すんですが、ジャガイモといってもいろいろあるわけですね。
たとえば「キタアカリの小ぶりのを100個!」とフランス語でまくし立てられても、フランス語でも「メイクイーン」「男爵」まではわかっても、「キタアカリ」とかサイズの微妙なニュアンスまではなかなかわからない。ですから、持ってきても「これじゃない!」と何往復もさせられることがほとんどでした。
根が体育会系なのでなんとかもちましたが、あの環境に適応するのは生半可なことじゃありません。
――そんな日々がどのくらい続いたのでしょう?
マカロン 実は下働きは1ヶ月ほどで抜け出し、ポワソニエ(poissonnier=魚料理の料理人)をやらせてもらえるようになりました。
――それはかなり異例のことでは?
マカロン 私は厨房で見ていた料理のつくり方を、毎日、イラスト付きで書き留め、翌日にはペーパーにして料理長に提出していたので、「こいつは何かある」と一目置かれたのかもしれません。
自分でも、「アピールできることはなんでもやらなければ!」と自分を追い込んでいましたから、その気合は伝わったはずです。「私はここにジャガイモをむくために来たんじゃない!」「ここで埋もれるわけにはいかない!」と少なからず焦っていましたし。
三ツ星レストランへのチケット
マカロン 日本では出る杭は打たれますが、フランスはそうじゃなかったということでもあります。いかに存在をアピールするかを日々考えていました。
たとえば、単純なことですが人の名前は1回で覚える。挨拶をした相手の名前を腕の内側にペンでどんどん書いて、次に言葉を交わすときはかならず名前を呼ぶようにしました。そうすると相手も「YUKA」という名前を覚えてくれて、仕事をもらえるようになる、という。
もちろん、慣れないフランスの巨大な厨房で、すぐに前向きになれたわけではありません。ジャガイモをむいて手を切っただけで泣けてくる…みたいなことも当然ありましたが、「なんとしても皮むきだけの生活を抜け出さなければ!」「絶対になにかつかんで帰る!」という一心で、自分を知ってもらうあらゆる工夫と努力をしました。
そんな日々の格闘ぶりが部門のシェフからトップのシェフに伝わり、三ツ星レストランでの修行への扉が開かれることになるんですね。
「そんなに真剣にフランス料理をやりたいなら三ツ星を紹介する」と、エスパドンのシェフの紹介で「ルドワイヤン(Ledoyen)」での修行が決まりました。
――エスパドンにはどのくらいいらっしゃったんでしょう。
マカロン 7ヶ月くらいだったかしら。
50人ほどのスタッフとはみんな仲良くなりました。それに、トップのシェフは普段は調理をせず指示を出すだけですが、最後の日は「60人分つくるぞ!」と一緒に調理をさせていただいたり。貴重で、本当に本当に楽しい経験でした。
一から出直し。しかし…
――修行先がルドワイヤンになったのはどういった経緯で?
マカロン 客としてルドワイヤンでお食事をして、お料理がとても美しくて好きなお店だったからです。表現として行き過ぎない新しさがあったので、それを習得したいと。
エスパドンのシェフに「ルドワイヤンに行きたいのですがどうでしょう?」と相談してご紹介いただきました。
エスパドンの同僚も、もともとルドワイヤンで働いていたり、エスパドンとルドワイヤンはスタッフ行き来の多い関係でもあったみたいです。「知り合いの○○さんもいるよ」という感じで人脈もあったので、スムーズに新しい職場に移れました。
とはいえ最初はカニの殻むき。一から出直しです(笑)。しかも、ルドワイヤンの厨房は2フロアに分かれ、1階は宴会向け、2階は美食家向けとかっちり階層化していて、1階からスタートした私が2階に上がれるのは無理!に思えたんですが…
――1階で終わるわけにはいかない!と?(笑)
マカロン (笑)そうっ! カニをむきながらアピール方法をあれこれ考えました。
作業をしながら「私はこんなことができる」「あれもできる」とシェフと会話していたら、ある日「絵を描いてくれ。墨で」と言われ。私が絵を描いていると言ったことを覚えてくれていたんですね。それですぐ、日本から水墨画のセットを送ってもらいました。
店のスペシャリテ(看板メニュー)の絵を描き、それがトップの目に留まり、「こいつは器用そうだ。上に上げてみよう」と2階に上がれたのです!
…と、そこまではいいのですが、あとは厨房のお約束でもありますが、ちょっとしたいじめもあったり…(笑)まさに戦いでした。
そんな苦労があったにもかかわらず、ビザの書き替えで4ヶ月ほどで辞めざるを得ませんでした。
あっ、思い出しました! このとき日本に帰って結婚式を挙げたのでした(笑)。
――では数ヶ月は日本にいらっしゃった?
マカロン いえ2週間ぐらいでフランスに戻りました。
――えーっ!(笑)
マカロン 会場選びやドレス選びは日本を離れる前に済ませていましたし、主人がネット関係に詳しいので、打合せはメールやネット電話で十分でしたもの。ただ、ウェディングエステをする間もなく、手はガサガサみたいな(笑)。
新入り掃除係が、翌日には肉の係に昇進
――フランスに戻ってから働かれたのが、今度はアルページュ(Arpege)と、こちらも三ツ星です。
マカロン いろんなレストランに履歴書を持ってアプローチしたなかの1つでした。ビザの関係で長く勤められないことがネックなのか、なかなか採用されないなかで、アルページュは受け入れてくれたんです。
少しでも早く厨房に馴染みたかったので、勤務開始の前日が店のお休みにもかかわらず店に入り、どこになにがあるか、厨房の位置関係や動線を頭に入れて臨みました。が…言い渡されたのは掃除係でした(笑)。
ただ、私も人を使う側になってわかるのですが、ほうきの使い方ひとつで仕事ぶりは想像がつくものです。先輩シェフは私のほうき使いを見て、「ちょっとやってみなさい」と、翌日には肉とガルニチュール=garniture(付け合せ)の係に配属されたんですね。ちょうど欠員が出たから、という理由もあったのですが、私はかなりラッキーみたいです。
前のルドワイヤンは体育会系でしたが、アルページュはアットホームで厨房も料理もやさしい雰囲気でした。
アルページュは値段が高い!とあまり評価をされない方もいらっしゃいますが、素材を生む土への思いから調理まで、そのこだわりを見れば納得するはずです。ここは本当に、料理をつくっていて「気持ちがいい!」と心から思えるような、徹底して本物を目指す店でした。
――アルページュにいらっしゃった期間は。
マカロン 3ヶ月弱だったかと思います。フランス修行は延べ2年ぐらいでしたね。あっという間でしたけれど。
(次回へつづく)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ

講師:マカロン由香
日時: 2010年04月03日(土)
場所: パーティスペース Dreamia新宿
(クリナップ新宿ショールーム内)
マカロン由香さんの講座開催決定!
詳細はComing soon...

マカロン由香さん
出張料理人
日本女子大学卒業後、教育業に従事。
エコール辻東京フランス・イタリア料理マスターカレッジ卒業後渡仏。
エコール・リッツ・エスコフィエディプロマ取得。
ホテルリッツ「エスパドン」、三つ星レストラン「ルドワイヤン」「アルぺージュ」で修行を積み帰国。
帰国後有限会社サブライムとして出張料理【La Macaron YUKA.】、料理教室【La Macaron YUKA.】を主宰、2008年にはM&C株式会社を立ち上げ、ワインバーやレストランプロデュースを手掛ける。
出張料理人、料理講師、講演、雑誌掲載、レシピ開発、ラジオ・テレビ出演他
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