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ウー・ウェンさんの小麦粉料理
ウー・ウェンさん
インタビュー 連載第3回
今月のゲストはウー・ウェンさん。料理好きならもう説明はいらないでしょう。書店には「ウー・ウェン本」コーナーがあり、雑誌・テレビでも、シンプルなのに斬新なレシピと、そのしなやかな存在感でひっぱりだこの「料理研究家」でいらっしゃいます。ご本人は「研究家じゃないの。中国家庭料理をご紹介しているだけ」と気負いがありません。「キッチンまん中、おいしい暮らし」がテーマのDreamia Club、新シリーズ「Dreamia人」初回は、まさに「キッチンが暮らしのまん中」とおっしゃるウー・ウェンさんにお話をうかがいました。
掲載日: 2010/1/22(金)
――20年前、ウーさんは北京からカナダへ留学されるはずが、天安門事件のあおりで渡航できなくなり、目的地を日本に変えられます。そこで運命の再会の末、結婚。日本に移り住まれるわけですが。
ウー 中国の文化にも造詣が深く、デザインや写真、編集と、なんでもこなす人でしたが、なんといっても、主人は私にとって本当に優秀なプロデューサーでした。だって、「これが実現するの?」とはじめのうちは疑っていた彼のプランに沿って歩いてきたら、本当にここまで来れてしまったのですから!(笑)
グルメな夫が認めた小麦粉料理
ウー 主人はそうとうなグルメでしたから、新米主婦の私は大変でした。しかも私は、和食はおろか、実家で中国料理すらつくったことがなかったのですからね!
おまけに主人の実家が古いタイプの日本家庭だったもので、妻は夫に従い、家を守るものという考え方が基本。ですから私は、とにかく家のこと、食事のことぐらいは頑張ってこなさなくては、と決意したんです。
結婚当時、料理の経験がなかった私ですが、おいしいものを見分ける味覚はしっかりしていました。
祖母も母も料理上手で、つくってくれるものはすべて、やさしくて食べ飽きない味。食べることにこだわりのある家でしたから、外食をするときもおいしい店しか行きません。だから、まずいものを食べたことがなかったんです。
その味覚だけを頼りにおいしい料理を自力で再現しましたが、グルメな主人は、最初「おいしい」も「まずい」も感想はなし。ただただお箸が動かないの(笑)。白金の高級フレンチレストランを「僕の食堂」と言っていたような人でしたから、なかなか手ごわい相手でした(笑)。
試行錯誤を続けるうちにたどり着いたのが小麦粉料理でした。北京はおいしい小麦粉がたくさんとれるところなので、小麦粉をおいしくいただく料理がいろいろあるんです。
主人がまず、私の小麦粉料理によろこんで、出版業界の知り合いを招いてご馳走するようになり、ひょんなことから雑誌で特集されることに。
それからはあっという間。いつのまにか料理研究家になっちゃったの(笑)。
今思うと、中国の文化を知っていただく意味でも、小麦粉という主食をテーマに選んだのは正解でした。日本はお米と水の文化、中国は小麦粉と油の文化。この対比から、日本と中国の文化の交流もはじまるし、中国に興味をもっていただく入り口としてすごくわかりやすかったんだと思います。
中国食文化の再発見
――1996年に雑誌に掲載された「北京の小麦粉料理」はかなり大きな反響だったと聞いています。
ウー いまだに「お粉の先生」と呼ばれてしまうほどです(笑)。
基本レシピからご紹介した『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』(高橋書店)も長く読まれていて本当にありがたく思っています。
――小麦粉料理ばかりでなく、ウーさんは中国各地のお料理を今も現地に赴いて勉強していらっしゃいます。
ウー 知らない食文化が中国にはまだまだたくさんありますからね。勉強しているうちにどんどんおもしろくなってしまうんです。
そんな風に思えるのは、私が中国を離れて日本で長く暮らしているからかな?と思います。離れてみると、自分が生まれ、育まれた文化のよさが、とてもよくわかりますから。
中国にいたときより、日本で暮らすようになった私のほうが、中国のよき理解者になっているような気もします。
中国各地を回っていると、とてもおもしろい文化に出会いますし、一方で大切な文化がなくなりつつあることにも気づかされます。私が少しずつでも、中国の文化を日本伝え、また、消えていく文化を中国に再発見してもらえるきっかけになるようなお仕事ができればと願っています。
――テレビのお仕事(「おかずのクッキング」。『ウー・ウェンのきれいな炒めもの』として単行本化)でも、ウーさんの中国家庭料理は材料が少なくてかんたんにできるものばかりで助かっています。
ウー 主婦の方には、家にある材料でかんたんにできるレシピが好評いただいているようで、あの番組もいつの間にかもう5年です!
忙しい主婦の皆さんのために、毎日お買い物に行かなくても済むようなレシピを、ウー・ウェンが頑張って考えていますよ!
伝えたい1テーマを1冊に託す
――『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』に話を戻しますが、あの本は本当によく考えられていて。まるで動画のように、調理作業のプロセス写真が並んでいて、写真につけられたキャプションも的確で、本の通りにつくったら本当においしくできました。
ウー でしょう? 知恵を絞って、手間隙もかけてつくりましたから。
私はもちろん、あの本には主人の思い入れがとても色濃く出ているんですね。
出版当時、実はレギュラーのテレビ番組でも小麦粉料理を紹介していたのですが、収録現場である制作スタッフの方が主人に向かって、「テレビはやっぱりすごいでしょ!」と自慢げに言ったの。それが、本や雑誌をフィールドにしていた主人にはそうとう悔しかったみたいです。
「絶対に紙面で伝えたい!」という闘争心に火がついて、編集者として積み上げてきたノウハウや技術をすべて注ぎ込んでつくったのが『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』でした。
――料理のポイントは本や雑誌のほうが実はわかりやすいと私も思います。テレビの画面だと大事なポイントが流れてしまいますが、写真は「ここ!」というところが間違いなく伝わります。
ウー そうなんですね。それから、あの本で私はいろんなチャイナドレスに着替えているんですが、それは「衣装持ちでしょっ!」と自慢したかったわけじゃありませんよ(笑)。
当時、日本でチャイナドレスといえば、裾にスリットの入ったキラキラした華やかなものがほとんどでしたが、中国の女の人が普段からあんな服を着ているわけがないんです。中国の普段着も、小麦粉料理という食文化と一緒に知ってもらったほうがいいんじゃないかな?という、主人と私のアイデアなんです。
――1冊で食と文化と考え方がわかるすばらしい本です。
ウー 今も買って読んでくださる方がいるのは幸せですね。
料理本は、雑誌やテレビでレシピをご紹介するのとは少し違って、はっきりしたメッセージをお伝えできますから、クッキングサロンと並んで、私の仕事の大切な柱です。
たとえば最近出た『ウー・ウェンの美味鍋』(高橋書店)は鍋底(グオデイ)=鍋のだしのバリエーションを知っていただきたくてつくった本です。中国の鍋で大事なのは具材よりだしなんです。
――ネギだけで1冊(『ウー・ウェンのねぎが、おいしい。』主婦と生活社)、黒酢だけで1冊(『ウー・ウェンの黒酢でおかず』高橋書店)など、こういう1テーマ1冊という本のつくりかたをされるのも、ウーレシピ本の特徴です。
ウー 1冊のなかの何品かが黒酢のレシピというより、1冊ぜんぶ黒酢の料理にしたほうが読んでいただく方に黒酢のよさが伝わりやすいですからね。
こんなふうに、中国の食文化のひとつひとつを具体的にお伝えしていくことが私の仕事と思って頑張っているんです。
スタッフが証明する身体にいいレシピ
ウー ちなみに、私のレシピが身体にいいのは、ウー・ウェンクッキングサロンのスタッフが証明してくれています。サロンで調理のアシスタントをしてもらって試食をしているうちに、病院いらずの健康体になっちゃうんです!
みんな忙しく働いてくれているのに、「なんでそんなに元気なの?」って不思議なくらい健康ですよ。
8月と12月はサロンをお休みにして家族と北京に行くんですけれど、そのあいだスタッフも休みでゆっくりしてるかしら?と思いきや、逆にみんな具合が悪くなるんですよ…ここでごはんを食べないと不健康になるって、こまっちゃうでしょう?(笑)
そんなスタッフにはいつも感謝の気持ちでいっぱい。母からもいつも「周りの人たちを大事にね」「私たちは遠くにいるから、何かあっても力になれないから」と言われていますが、日本語のことわざで「遠くの親戚より近くの他人」とあるとおりだと感じています。
私はもちろん、子どもたちも、スタッフのみんなに支えられてここまで来れたな、といつも感謝しています。
(次回へつづく)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ
ウー・ウェン(うー・うぇん)
料理研究家
北京生まれ。北京師範大学卒業。1990年来日。自宅でのおもてなし料理が評判となり料理研究家の道へ。小麦粉料理を中心に北京に伝わる家庭料理を日本の素材で手軽にできる中国料理として紹介し、シンプルかつ体や健康をいたわる料理として人気を呼ぶ。日本と中国北京でクッキングサロンを主宰するかたわら、雑誌、テレビでも活躍。その他にも中国の生活文化の魅力を幅広く紹介している。著書に『ウー・ウェンの黒酢でおかず』、『ウー・ウェンの美味鍋』、『餃子 春巻 焼売-ウー・ウェンの小麦粉料理 』(ともに高橋書店)など多数。
料理研究家 ウー・ウェンの台所
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