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祖母と母から学んだ「食」の考え方

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ウー・ウェンさん

インタビュー 連載第2回

今月のゲストはウー・ウェンさん。料理好きならもう説明はいらないでしょう。書店には「ウー・ウェン本」コーナーがあり、雑誌・テレビでも、シンプルなのに斬新なレシピと、そのしなやかな存在感でひっぱりだこの「料理研究家」でいらっしゃいます。ご本人は「研究家じゃないの。中国家庭料理をご紹介しているだけ」と気負いがありません。「キッチンまん中、おいしい暮らし」がテーマのDreamia Club、新シリーズ「Dreamia人」初回は、まさに「キッチンが暮らしのまん中」とおっしゃるウー・ウェンさんにお話をうかがいました。

掲載日: 2010/1/15(金)

●文化大革命が教えてくれたこと

_SSP7678.jpg――前回、現在のお仕事についてお話を伺いましたから、ちょっとウーさんの歴史を遡ってみたいと思います。
お若いので、初めてこの話をうかがったときは「本当!?」と驚きましたが、ウーさんは文化大革命をご経験された。

ウー そうなんです。祖父母が資本家で、両親ともに学者という、政府の風当たりが強い一家だったので、父は国の監督下に入れられ、兄は父方の祖母の家に引きとられ、母と私は母方の祖父母の家で田舎暮らしを強いられてました。私が5歳のころから家族はバラバラでした。
 今、私が家族を大事にしたいのは、その頃の経験があったからだと思います。仕事も大事ですが、やはり家族が一番なんです。

――文化大革命の嵐にまさに巻き込まれ、教育を受けることもままならない時代を経て、ウーさんは名門大学に入られたわけですが、子どもの頃の経験が、今のウーさんの価値観の大元になっているのでしょうか。

ウー ええ、大変な時代でした。ただ、自分の子どもたちを見ていると、「苦労は無駄じゃなかった」とも思います。もちろん、私ほどの苦労はしないにこしたことはありませんが、あの辛い経験があるから、今どんなに苦しいことがあっても「あのときよりは楽だわ」と耐えることができる。
 今の子どもたちは思い通りにならないことのほうが少ないですから、「このまま大人になって大丈夫かしら?」と、ときどき心配になります。

文化大革命を経た後、大学を卒業し、就職して、26歳になるまで中国で暮らし、その後日本に移り住んで20年が経ちます。過ごした時間は中国の26年のほうが長いけれど、私が最近思うのは、「若いうちはまだ経験が整理できていなかったな」ということなんです。

――というと?

ウー 26年、中国で暮らしましたが、私が自分の人生をどう歩んで行こうか?と自分の頭で考えはじめたのは日本に来てからでした。だから、私の人生はそこからスタートしなおしたんじゃないかしら?と思うんです。
私の身体や、考え方の基本を育ててくれたのは中国の文化ですけれど、生き方についての姿勢を育ててくれたのは日本の文化かもしれません。これは最近になって気づいたことです。

それにしても、こんな出自の料理研究家って珍しいですよね?(笑)

――なかなかいらっしゃらないでしょうね。貴重な経験を内面化された歴史の証人でもいらっしゃるし、中国での経験を料理を通じて紹介された方でもありますから。

本物の中国家庭料理の「考え方」

_SSP7596.jpgウー 日本での20年がなければ、中国の食文化を、今のように客観的に見ることはできなかったと思います。
日本にいると、同じ中国人でも「中国人ってこんなに食いしん坊なの!?」「身体の健康をここまで考えているの!?」と驚かされることばかりですが、ずっと中国にいたら当たり前すぎて、「発見」はできなかったでしょう。

 それから、これも最近気づいたことなんですが、十年以上料理の仕事をしてきて、私の仕事は浅くなっているんです。

――「浅く」ですか?

ウー 料理の仕事をはじめたばかりの頃は、「日本の人たちは中国のことをよく知っている」と思っていたので、「私がわざわざ中国のことを教えるなら、日本の皆さんがあまり知らないこと、でも中国ではポピュラーでネイティブなものを日本の方に伝えたい」と一生懸命考えて、工夫していました。
 でも、長くこの仕事をやってきて、「実は本当の中国を知っている日本人はあまりいないんじゃないかしら?」と気づいたんです。
 それならば、難しく考えて中国人も知らないようなことを深く追求するより、もっと普通の、中国の日常を知ってもらうほうがいいんじゃないかしら?と思うようになったんです。

――敷居を低くして、気軽に中国を知ってもらいたいというふうに考え方が変わったわけですね。
ウーさんのレシピはそこがすばらしくて、中国の材料にこだわりすぎない。八角やオイスターソースと、中国料理っぽい食材・調味料がないと作れないかと思いきや、「サラダ油に日本酒、胡椒だけでも中国料理はできます」と言い切られます。


ウー 本当の中国の料理は私のレシピ以上にシンプルですから。だって、家庭料理は家にある材料でつくるものでしょう?

 春巻きだって私のつくるものは具材は1種類です。冷蔵庫にある野菜を切って、春巻きの皮で巻いて、油で揚げれば、それで十分おいしいの。
 干ししいたけを戻して…とか、千切りにした野菜を炒めて・冷まして…とか、1品に手間をかけている時間で、私のレシピなら3品つくれちゃいますから(笑)。
 

 

――以前、取材をさせていただいたときにウーさんがおっしゃって新鮮だったのが、「私の料理は見てもおいしくないけど食べたらおいしい」って(笑)。

_SSP7757.jpgのサムネール画像 ウー そうそう。材料もにんじんとサラダ油と塩こしょうだけだったり。「これで本当においしくなるんですか?」って言われちゃう。おいしかったでしょう?(笑)

――とっても!(笑)

ウー 料理の「考え方」がわかると、材料は違ってもおいしさの再現ができるようになりますよ。私はレシピというより、中国家庭料理のおいしくつくる「考え方」をお教えしていると言ったほうがいいかもしれません。

――中国料理はつくるのに特別な材料が必要だし、手間がかかると、多くの日本人は誤解していたわけですが、ウーさんは「中国料理だって家庭料理。毎日つくるものだから特別な材料なんか必要ないし、そんなに手間もかかりません」と紹介してくださった。本当に新鮮でした。

ウー もともと私は料理研究家になるつもりではなかったし、今でも私は主婦でありお母さんですから。特別な料理や新しい提案をするより、単純に「食べておいしい料理」をつくることが私のモットーなんです。
 私の1日はお弁当づくりからはじまりますからね。
 お弁当も、いろいろなおかずをつくって、小さく切って、彩りを考えて詰めたらたしかに見た目は「おいしそう」。でも、それを毎日つづけるのは難しいでしょう? だから私がつくったお弁当のレシピ本は2品!(『ウー・ウェン流 おかず2品のお弁当』 (講談社のお料理BOOK) ) おいしければ2品で十分なの。

――私自身、ウーさんのレシピで中国料理がすごく身近になりました。

ウー それはうれしいですね。面倒な準備は必要ないんです。ただ、食材の切り方や火の入れ方、炒める順番に理由があって。それだけ考えてつくれば、誰にでも中国料理はできます。

●身体にいいものは身体が知っている

_SSP7831.jpg――季節ごとに季節のものを食べる、それがいちばん身体にいいという考え方もとてもシンプルで合理的です。

ウー 何を食べるかにも理由がありますからね。
 たとえば寒い時期にはトマトは食べません。トマトは身体を冷やしますから、今食べてはいけないの。冬はレンコン、白菜、大根。鍋や煮物にたくさん入れれば、乾燥の季節に水分を補い、身体を温めてくれます。

スーパーマーケットに行けば季節はずれの食材もかんたんに手に入る時代ですが、それは本当の豊かさかしら?とちょっと疑問に思うんですね。
冬にトマトが売っていても、私は手に取ることもありません。「何が食べたい?」って身体に聞いてみると、「寒いからお鍋であったまりたいな」とか(笑)答えが返ってくるものなんですね。身体は正直ですよ。

――おばあさまやお母さまがつくってくれた料理の知恵が、ウーさんの身体の声の源になっている。

ウー ええ。家庭料理の知恵が伝わるルートは、おばあちゃんからおかあさん、おかあさんから子ども、これは変えようがありません。
 実は私、実家にいるときは料理をつくったことがありません。だから、料理のつくりかたは教わったことがないんです。でも、何を食べるか、どう食べるかという「考え方」は祖母や母からしっかり受け継いでいます。

 お腹がいたければ、しょうが湯に黒砂糖をたっぷり入れて飲まされました。風邪をひいたときも、頭が痛いときも同じ。つまり、風邪も頭痛も腹痛も身体を温めれば治るという考え方を教えてくれたんですね。

 代々伝わってきた生活の知恵ですから民間療法と呼べるかもしれませんが、みんながいろいろな説を信じているので正解はありません。「風邪のときはネギがいい」といっても、ある人は「青いところがいい!」と言うし、「別の人は「いや、白いところ!」とか(笑)
 人それぞれ、信じている方法に違いはありますけれど、食べ物で健康管理ができる、という考え方は中国ではどんな家庭でも信じられてきたし、実践され続けてきたことなんですね。
 身体が本当に悪くなってしまう前に、中国の人たちはこうして、食べ物で手当てをします。

_SSP7627.jpg――日本でも昔は民間療法的な食文化がありましたが、ウーさんが日本に来られた20年前には、日本でもそういう文化が薄れていた時代でした。だからこそなおさら、中国の「食」の考え方を見直すよい契機になったのかもしれません。

ウー 今は中国でも同じように、食べることの大切さが忘れられつつあります。残念なことですが、便利になるという時代の流れには逆らえません。
 ですから私、20年後は北京で中国人向けにお料理の教室を開いて、おばあちゃん、おかあさんから教えられた食文化を教えてあげなくちゃいけなくなるわ、と思っているんです。

 食べることは人間の生き方の基盤ですから、皆さんにも「食」についてはもっと考えてもらいたいな、と思います。身体が元気で健康であることは、誰にとっても一番大切なことなはずですから、なにを食べるべきか、その考え方は知っておいたほうがいいと思います。

(次回へつづく)

インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング
写真=下村しのぶ

プロフィール

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ウー・ウェン(うー・うぇん)

料理研究家

北京生まれ。北京師範大学卒業。1990年来日。自宅でのおもてなし料理が評判となり料理研究家の道へ。小麦粉料理を中心に北京に伝わる家庭料理を日本の素材で手軽にできる中国料理として紹介し、シンプルかつ体や健康をいたわる料理として人気を呼ぶ。日本と中国北京でクッキングサロンを主宰するかたわら、雑誌、テレビでも活躍。その他にも中国の生活文化の魅力を幅広く紹介している。著書に『ウー・ウェンの黒酢でおかず』、『ウー・ウェンの美味鍋』、『餃子 春巻 焼売-ウー・ウェンの小麦粉料理 』(ともに高橋書店)など多数。

料理研究家 ウー・ウェンの台所
 

 

 

 

 

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