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家庭料理を通して中国を紹介したい
ウー・ウェンさん
インタビュー 連載第1回
今月のゲストはウー・ウェンさん。料理好きならもう説明はいらないでしょう。書店には「ウー・ウェン本」コーナーがあり、雑誌・テレビでも、シンプルなのに斬新なレシピと、そのしなやかな存在感でひっぱりだこの「料理研究家」でいらっしゃいます。ご本人は「研究家じゃないの。中国家庭料理をご紹介しているだけ」と気負いがありません。「キッチンまん中、おいしい暮らし」がテーマのDreamia Club、新シリーズ「Dreamia人」初回は、まさに「キッチンが暮らしのまん中」とおっしゃるウー・ウェンさんにお話をうかがいました。
掲載日: 2010/01/08(金)
東京・渋谷区にあるウー・ウェン クッキングサロンはいつも、ぴんと気持ちのいい緊張感に満ちています。掃除の行き届いた部屋に、吟味されたインテリアがゆったりと配置された部屋。たくさんの器が食器棚に整然と収められ、蒸し物の蒸籠(せいろ)も行儀よく重ねられ、主人の登場を静かに待っている――。
「いらっしゃーい!」 主人公のウー・ウェンさんが登場するや、緊張が一気に和みます。部屋全体がほんのり温かみを帯び、空気が柔らぐような、そんな太陽みたいな強いオーラ。ウーさんの華やかな笑顔と、日中の交流という大きなテーマを見つめる強い視線を支えているものは何なのでしょう。
●日中友好はテーブルの上のおいしい料理から
――ウーさんは書籍や雑誌・テレビ、調理器具のプロデュースと、さまざまなフィールドでご活躍されています。中でも恵比寿で開催されているウー・ウェン クッキングサロンは、もう10年以上の人気教室で、ウーさんにとっても大切な場所のように感じます。
ウー このクッキングサロンは、レシピを教えるというより、レシピの向こうにある中国を知っていただく場だと思っています。中国の暮らし方をご紹介することが大事なことのような気がしていて。
レシピは理屈に支えられています。それは中国の人たちが長い時間をかけて積み上げてきた知識や文化。そこに触れず、レシピだけお教えすると、どうしても自分なりに、日本風にアレンジして、食べなれた味に近づけてしまうものですよね。
でも、理屈をわかっていただけると、「なるほどこれが本物の、ネイティヴな中国の味なのね」と気づいていただけるし、中国の考え方のよいところを、ご自分の生活にいかしていただける。
そんな日中の文化の交流がうまれると、「サロンをやっていてよかった!」と思えるんですね。
私は料理研究家とは思っていません。自分では「なんちゃって研究家」って言っているんですが(笑)、自分が今まで食べてきたもの、そのいいところ、おいしさの秘密を自分なりに分析して、皆さんにご紹介するのが自分の仕事だと思っています。
残念ながら、日本と中国は民間レベルの交流が今まであまりありませんでした。悲しい戦争の歴史や、外交問題ももちろん大きな理由でしたが、私が思うのは、女性が表立って交流することが少なかったからじゃないかしら?ということです。
私が「こうだったらいいなー」とイメージしているのは、女性同士が豊かに交流をしている風景。女性同士ですから、舞台はもちろん、キッチンでありテーブルですよ!
ほかほかと湯気の上がるスープや炒め物、こんがりと焼けたお肉、ふっくらと蒸しあがった饅頭……テーブルに所狭しと並んでいるおいしい料理に、次々とお箸をのばしながら、「おいしいわね」「これどうやってつくったの?」と自然に会話が生まれる、そんな光景です。
中国の宮廷料理だって西太后がおいしくしたんですから、女性はみーんな食いしん坊ですよね!(笑)
日中友好はテーブルの上のおいしい料理からはじめるのが一番手っ取り早いんじゃないかしら?って、私は思っているんです。
●長年人気の東京のサロン
――生徒さんも多く、大人気のサロンですが、あまり規模を広げられていません。
ウー 私自身が実際に食べてきたネイティヴなレシピを教えたくて、その質をずっと変えずにいたいから、人任せにはできないんですね。私がいつも現場にいたいので、今のままでいいかな、と思っています。
ですから、開業から13年たってもウー・ウェン クッキングサロンはほとんど変わっていません。生徒さんも長く続けてきてくださる方が多くて、皆さん、サロンにとても愛情を注いで大事にしてくださって。本当にありがたいことだと思います。
料理本をつくったり、テレビのお料理番組に呼んでいただいたり、調理器具をプロデュースしたり、いろんなお仕事をさせていただいていますが、私のなかではやはり、クッキングサロンで生徒さんと一緒に過ごすのが、一番心地いい時間なんです。
理解してくださる生徒さんたちに囲まれて、心から幸せだと思える時間です。
――生徒さんを連れて北京ツアーもされるとか。
ウー ええ。10年以上、毎年1回は生徒さんと北京へ出かけます。おかげさまで毎回好評で、いつも満員。
――それはすごいですね。でもウーさんが案内してくださる北京のツアー、私も参加してみたいです。
ウー (笑)。サロンは、本当に熱心な生徒さんに支えていただいていますから、その感謝のしるしとして、「私から皆さんには何がお返しできるかしら?」と考えてスタートしたのが、北京のクッキングサロンです。
●北京在住の日本人に向けたサロン
ウー 北京のサロンのオープンは8年前。生徒さんは北京駐在の日本人ビジネスマンの奥様方です。レッスンの内容は東京のサロンと同じですが、北京には年に数回しか行けませんから、集中講義でお教えしています。
午前と午後のコースで、それぞれ30人ほどの生徒さんが来てくださって、教えたいこともたくさんあるし、生徒さんもいろいろ質問してくださるので、私が食べられちゃいそうなくらいの熱気ですよ(笑)。
3~5日の集中講義も終盤になると、皆さんシュンとしはじめて、「先生が帰っちゃうと寂しくなりますー」と泣いてしまわれる方もいるくらい。私が「また来るから!」と慰めても泣いちゃうの。
北京のサロンのほうが、暮らしに直結した実用性の高い内容になっているかもしれません。というのも、サロンで勉強していただいたことが、すぐに生活に生かせますからね。
――北京の生活には、北京のことをよく知っていらっしゃる方の情報が一番ですもの。
ウー 駐在員の奥様方はどうしても、駐在員同士のコミュニティの中に行動が制限されがちです。市場やスーパーマーケットに行って買い物がしてみたくても、ひとりで出かけるのは少し怖いし、勝手がわからないと買い物って思うようにできないものですよね。
東京と北京とはお店に置いてあるものも違います。海外の食料品店に行くと「これは何に使うの?」っていう商品がたくさんあるでしょう?
かといって中国人の先生が開いているお料理教室にいくのもちょっと勇気がいります。
だから日本のことも知っていて、中国のこともわかる私のような人間が、駐在員の奥様たちに教えてさしあげることに意味があるんですね。
皆さんにとって、今までわからないことだらけ、謎だらけだったことでも、私がちょっとお話をするだけで「あ、そういうことだったのね!」「なるほど!」とあっという間に解決してしまうんです。
いらっしゃったばかりは不安げな表情の生徒さんも、レッスンを終えて帰られるときにはもうニコニコの笑顔ですよ(笑)。
みなさん、お忙しくても時間を工面して来てくださるので、それだけの価値があると思っていただけているからには、私も頑張らなくちゃ!と思います。
●役に立てること、必要とされること
――北京のサロンでは、お買い物ツアーもされるとか?
ウー ええ。生徒さんと一緒に市場に出かけて、実際にお買い物をします。
でもね、私が現地の人にはわからない日本語でなにやら案内をしているし、すごく大勢で連れ立って歩いているので、市場の人に怪しまれることもあるんです。警備員に「何やってるんですか?」と問い詰められることもあって、そんなときは「あなたたちの商品を宣伝してあげてるのよっ!」って(笑)。
同じ丸鶏でも、スープを取るためのものと煮物や焼き物に使うものでは違うんですが、地元の人は「スープ用」とか「煮物用」とかわざわざ書きません。日本だったら「から揚げ用」とか「水炊き用」と書いてありますが、北京の人にとってはでも、違いがわからない「それは書かなくてもわかるでしょう?」っていうことなんですね。でも説明がないと日本人にはわからない。
そこで私が一緒に市場を歩いて説明すると「そういうことだったの!」ととっても喜んでいただけるんです。
北京のサロンはですから、仕事というよりも私のライフワークであり生きがいでもあります。
――ウーさんのサロンのおかげで、日本からの駐在員の奥様たちは北京のことに興味をもって好きになってくれるし、北京の人も「駐在員の奥さんが市場に来てくれた」と日本に親近感を覚えていただけますよね。
ウー そうなんです。北京のサロンは、本来の意味での「サロン(社交場)」かもしれません。
――そうですね。生徒さんにとっては命綱と言ってもいい、かけがえのない場だと思います。
ウー 北京のサロンもとてもやりがいのあるお仕事です。
人は誰でも自分の役割を果たしたいという思いがあるものですが、私にとっては北京のサロンも与えられた役割のひとつだなと強く思います。
今までの人生で培われた考え方や価値観を、皆さんにお伝えできること、そして、それが皆さんの暮らしに役立てていただける。これはとても励みになりますし、私自身の活力になります。
――ウーさんにしかできないことですからね。
ウー 誰かから必要とされるって、幸せなことだなーと深く感じています。最近、子どもたちにはだんだん必要とされなくなって寂しいんですけれどっ(笑)。
――お子さんが自立に近づいているということですから、喜ぶべきことでは?(笑)
ウー そうかしらぁ…でも寂しいんですもん(笑)。
(次回へつづく)
インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング)
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング)
写真=下村しのぶ
ウー・ウェン(うー・うぇん)
料理研究家
北京生まれ。北京師範大学卒業。1990年来日。自宅でのおもてなし料理が評判となり料理研究家の道へ。小麦粉料理を中心に北京に伝わる家庭料理を日本の素材で手軽にできる中国料理として紹介し、シンプルかつ体や健康をいたわる料理として人気を呼ぶ。日本と中国北京でクッキングサロンを主宰するかたわら、雑誌、テレビでも活躍。その他にも中国の生活文化の魅力を幅広く紹介している。著書に『ウー・ウェンの黒酢でおかず』、『ウー・ウェンの美味鍋』、『餃子 春巻 焼売-ウー・ウェンの小麦粉料理 』(ともに高橋書店)など多数。
料理研究家 ウー・ウェンの台所
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