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荻上監督のおいしい撮影現場

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映画監督 荻上直子(おぎがみ なおこ)さん

インタビュー 連載第4回

今月のDreamia人は映画監督の荻上直子さん。北欧フィンランドを舞台に、ありそうであり得ない世界を、淡々と、でもウィットを効かせながら描いた『かもめ食堂』が大ヒット。次作『めがね』で「荻上ワールド」を不動のものにされました。8月28日(土)公開の最新作『トイレット』の制作秘話も含め、食事が人の心を通わせる重要なカギになるようなシーンを切り取り、「食」の大切さをほっこりと思い起こさせる映画を撮る監督にお話をうかがいました。

掲載日:2010/08/27(金)

PFFのスカラシップで長編デビュー

_1SS6043.jpg――2000年に帰国された荻上監督は、2001年には自主制作映画『星ノくん・夢ノくん』でぴあフィルムフェスティバル(PFF)の音楽賞を受賞されます。

荻上 帰国後、映画やメイキングフィルムの制作現場で3つくらい働きました。でも「このままでは監督にはなれない」と思って、現場の仕事を一切やめて。それから撮ったのが『星ノくん・夢ノくん』です。
 PFFのスカラシップが万が一とれて、その資金で映画を撮ることができれば、それが監督になる最短の道筋かなって。

 私はなんのコネもなかったですし、自作の脚本やアメリカで撮った短編映画をもって何人かのプロデューサーのところにプレゼンをしに行ったりもしたんですが、なかなかうまくいきませんでした。
 それでPFFに賭けてみたんです。これでダメだったらもう一度アメリカに帰ろうと思っていました。

――PFFのスカラシップを得て撮られた作品が『バーバー吉野』です。小学生が同じ髪型にしなければならない町と、その髪型を守るもたいさんの話という、かなりユニークなもので。

荻上 アメリカで知り合った日本人の男の子から聞いた話をもとに、自分で脚本を書きました。彼は群馬県出身で、近所にあったおもしろい床屋の話を、一度食事をしたときに聞いたんです。
 床屋のおばちゃんがいつも往来を見張っていて、ちょっとでも髪が伸びていると、「今日学校帰りに寄りなさい」と言われる、っていう。それが妙におもしろくて。

――(笑)。次は『恋は五・七・五!』という、俳句甲子園をテーマにした作品です。

荻上 もともとは、ウクレレバンドを結成した女の子たちの話を書いたんです。プロデューサーに見せたら、「おもしろいね。でもウクレレじゃなくて俳句でやろう」って。

 登場人物の1人、Pちゃんをウクレレ大好き少女という設定にしたのはそういう理由です。

「おいしい!」があふれた『かもめ食堂』

_1SS5940.jpg――そして『かもめ食堂』。フィンランドで撮影された作品です。フィンランドはどんな印象ですか?

荻上 3、4か月しか滞在していませんが、フィンランド人はヘンは人たちが多いですね。シャイというか。

――この作品は群ようこさんが原作をお書きになって、「食堂」が舞台というシチュエーションは決まっていたわけですが、荻上監督ご自身も食べることには興味がおありになる?

荻上 食べることは大好きです! お酒も飲みますし。

――「お腹を空かせたまま観にこないでください」と監督ご自身もおっしゃっていましたが、たしかに『かもめ食堂』は空腹で観ると地獄ですよね。
 網で丁寧に焼いた鮭、さっくり仕上がったとんかつ、豚のしょうが焼、白いご飯…次々と出てくる食べ物がすべておいしそうで。
 シナモンロールも、スクリーンから香りが漂ってくるように思えるくらいおいしくて。あれはフィンランドではお馴染みの食べ物なんですか?


荻上
 ええ。シカゴのシナモンロールも有名ですが、あれは甘くてベタベタしたものじゃないですか。でもフィンランドのシナモンロールは、生地にシナモンがたくさん練りこんであって、サクサクと香りがよくて、すごくおいしいんです。

――コピ・ルアックというおまじないの話が出てきますが、あれもフィンランドでは知られていること? そうじゃないですよね?

荻上 ええ、おまじないは私のつくり話です。
 ただ、コピ・ルアックというコーヒーは本当にあるんですよ。熟したコーヒーチェリーをジャコウネコに食べさせて、実の部分だけ消化させて排泄された豆をきれいに洗ってから焙煎するんです。

――へぇ! 

 あと、なんといってもおいしそうだったのが、おにぎりです。具をザリガニにしたのは、おいしいのかな?と不安がありますけれど。

荻上 おにぎりは群さんの原作どおりですね。具にザリガニを入れたりしたのは、原作にあったかなぁ…ちょっと忘れてしまいましたけれど、意外とおいしかったみたいです。私は試食できなかったんですが。

「ヒットの手ごたえは…ありました」

_1SS6085.jpg――『かもめ食堂』があそこまで大ヒットすることは予想されていましたか?

荻上 スタッフの中には不安もあったみたいですが、私としては、撮っていて小林さんの演技がとてもすばらしかったですし、もたいさん、片桐はいりさんもすごくおもしろくて、「これは想像以上の反響がくる!」という手ごたえを感じてはいましたね。

 何本か映画を撮ってきた私が、撮り終えて、「これ、絶対おもしろくなっちゃう、どうしよう!?」と予感を感じた作品でもありました。
 というか、そういう確信を得られなければ撮影を終わりにしませんし。

――PASCOのCMをご担当されるようになるのは、『かもめ食堂』のすぐ後ですよね。

荻上 そうです。フィンランドバージョンを2期分、やらせていただきました。

――あのCMもおいしそうですよね。あれからイングリッシュマフィンが売れるようになったそうですから。

荻上 へぇー、それはうれしいです。
 映画でもCMでも料理は飯島奈美さんにお任せで、運ばれてくるできあがりは「おぉー!」と感動させられるものばかりで、見た目だけじゃなく、食べても本当においしいので、「おいしい顔」を撮るのが楽でした。

――なるほど。

荻上 撮影が済んだら、みんなでつまんで、「わぁーおいしい!」という感じです(笑)。

――おいしいだけじゃなくて、料理をする小林さんの手つきも美しいですよね。

荻上 そうなんですよ! 普段からやっていらっしゃるので、とても手際がいいですし。

朝ごはん、かき氷、メルシー体操

_1SS5862.jpg――そして、与論島で撮影された『めがね』。物語の設定は与論島ではなく、架空の島ですが。
あの宿の朝ごはんがまたおいしそうで。まだ心を閉ざしている小林さん演じるタエコが「いりません」と食べずに出ていって、「食べればよかった」と後悔するシーンがとても印象的でした。観ているこちらも「食べればよかった」と思ってしまいました。


荻上 (笑)。

――「ハマダ」という宿も、海辺のかき氷屋も、残念ながら実際にはなく、すべて荻上監督の想像の産物というわけですよね。

荻上 ええ。プロデューサーから与論島で撮りたいというお話をいただいて、偶然私も与論島に遊びに行ったばかりだったので「それはいいですね」とスタートした企画でした。
 かき氷はどこから来たんだっけ…。すみません、忘れてしまいました(笑)。

――メルシー体操(海辺で行うラジオ体操のようなもの。もたいさん演じるサクラさんがお手本を見せる)は?

荻上 えーと、どうだったかな(笑)。メルシー体操で覚えているのは、もたいさんがあの音楽をずっと四拍子だと思っていたということ。ワルツだから本当は三拍子なのに、さすがもたいさん!という感じです(笑)。

 海辺という設定は決まっていたので、かき氷もメルシー体操も、「海辺でもたいさんにやってもらったらおもしろそうなこと」を考えて思いついたんだと思います。

最新作『トイレット』

_1SS6180.jpg――8月18日には、『トイレット』の原案となっている話も含めたはじめての小説集『モリオ』(光文社)も刊行されました。

荻上 いやー、死にそうになって書きました。

――(笑)。映画『トイレット』はどういう方に見てもらいたいですか?

荻上 えー…うーん…(悩んでいる)…実は私、観客層をあまり考えずに映画を撮っていので、いろんな方に見ていただいて、いろんな感想があるとうれしいと思います。

「こんなのおもしろくない」と言う方もいるでしょうし、「おもしろい」って言ってくださったり、笑ってくださる方がいれば、それは本当にうれしいです。

 今作はラストシーンが撮りたくてつくったと言ってしまっていいような作品なので、そこはぜひ見ていただきたいと思います。

――あのラストシーンはすばらしいと思います。
 ところで、映画づくりで気をつけられていることとかはありますか?

荻上 脚本を書くとき、まずはストーリーの流れを計画して、はじまりから終わりまでを線で考えるんです。
 でも、つくるときに、理屈じゃない、線には収まらないところまで撮らなきゃいけない、宇宙まで思考を飛ばして撮らなきゃいけないと思いながら撮っています。

 自分の作品以外でも、そんな「理屈じゃない」部分がフッと出てきた瞬間に、私はその映画が好きになるし、自分で撮るときもそれを意識しているんですが、なかなか難しいですね。

――なるほど。『トイレット』は「荻上作品は癒し系でしょ?」という印象だけで足を運ばなかったお客さんにも、ぜひ見てほしい作品だし、見れば絶対におもしろいはずですし。

荻上 ありがとうございます!

――最後にうかがいます。荻上監督にとってキッチンとは?

荻上 実は、自分では必要に迫られてしか料理をしないんです。食べることは大好きなんですが、飯島奈美さんの料理を食べてから、「自分の料理なんて!」と思ってしまって(笑)。

 自分でつくるのはほとんど酒のつまみですね。たこキムチとか。和えるだけですけれど(笑)。

 撮影現場ではキャストやスタッフ用のケータリングを用意するんですが、プロデューサーも食いしん坊なので、いつもおいしいものばかりです。

 ケータリングがおいしいかどうかで、現場の雰囲気が変わるものなので、そこには気をつかっていますね。

 私の映画の中では料理は重要な役割を果たしていますし、現場ではケータリングも大事です。おいしいものをつくり出すキッチンは、私の映画には欠かせません。

――なるほど。今日は楽しいお話をありがとうございました!

荻上 こちらこそ、楽しかったです!

(おわり)

インタビュー=深澤真紀(タクト・プランニング
テキスト=橋中佐和(タクト・プランニング
写真=下村しのぶ

プロフィール

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荻上直子(おぎがみ なおこ)さん

映画監督

1972年 千葉県出身。
千葉大学工業学部卒業
94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で学ぶ。
00年帰国。
第23回ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード'01で音楽賞を受賞。
デビュー作『バーバー吉野』(03)でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。
『かもめ食堂』(06)の大ヒットにより、日本映画の新しいジャンルを築く。
『めがね』(07)は、海外の映画祭でも注目を集め、08年サンダンスフィルム映画祭、香港映画祭、サンフランシスコ映画祭などに出品され、ベルリン国際映画祭では、ザルツゲーバー賞を受賞した。

TOILET公式HP

 

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